庇護する女たち

始祖鳥

神話



「男に会おうなど、考えぬことだ」




旅人は少し驚いて、飲み物の器をテーブルに置いた。


村の中心にある大きな家で、旅人はこの村のおさである老齢の女性から、もてなしを受けている。


長は旅人をこころよく迎え入れ、村について詳しく話していたのだが、たがいがだいぶ打ち解け場がなごんだ所で、旅人が村の男のことをたずねると、急に態度が変わった。


旅人は、自分の早計そうけいな判断を少し後悔しながら、気をまぎらわせるように窓を見た。


窓の外には畑や牧場が広がり、丘の上には白い建物が太陽の光を受けて輝いている。



「あの丘を登ることが許されるのは、年に一度の祭りの時と、村の会議で認められた場合のみだ。私ですら男たちのじゅうきょには、近づくことは無い」


なのに、よそ者である旅人など、もってのほか。と言いたげにも、旅人には聞こえた。



「神聖ゆえ不可侵」



彼女はそう言ってから、静かに語りはじめた。





かつて、混沌から分かれた神々の種族があった。


神々は世界を作った。


海と空、天と地、あらゆる生きもの。



やがて人を作り、人は増え繁栄した。


そして災いの時、人は滅びるさだめだった。


だが神々は、特別な子どもを人に与えた。


それは男児だった。


人間にとってはじめての男である。



人々は彼によって生まれ変わり、栄え、国が生まれた。





「我らにとって希望、救い、恵み。言い尽くせる言葉など無い。まさに神々の恩寵おんちょうなのだ。みだりに姿を拝むことは許されぬ。よって会わせるわけにはいかぬ。たとえお前さんがであってもだ」



旅人は、それ以上聞かなかった。



つまり、ここでは男は貴重なのだ。


噂のように男を奴隷にしたり、ましてや男児が生まれたら間引くなど考えられない。


かつて災害や疫病によって男が減った分、女たちが男の仕事もするようになった。そして少ない男たちと、子孫を残して今にいたるのだろう。彼女たちのは、それを物語るものに違いない。




旅人は長に謝罪と、もてなしの礼を言って席を立った。




アマゾネス。


彼女たちは、みずからをアマゾーンと呼びほこる。

人と呼ぶには、あまりにも野性的な種族。

武装し馬に乗り、戦いと狩りを好み、男をらう野蛮な女たち。


世の中のイメージとは裏腹に、ここの住人たちは畑を耕し、家畜を飼い、穏やかに暮らしている。



旅人は筆記具ひっきぐを出して、今起きたことを書きめる。


「男は神々の恩寵……」



辺境に散らばり暮らしていた彼女たちは、周辺の国々にも住み始め、アマゾーンの名も広まり、定着しつつある。


その中のある王国から、この村の実態を探るべく、一人の旅人が訪れた。


旅人はアマゾーンの知識を持ち、研究している王国からの使者であった。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る