“理不尽の魔王”と称されていた少女は現代に転生し、余すことなくその力を轟かす

@Nier_o

第1話

理不尽の魔王と呼ばれ。

立ち向かう者達を総じて相手取り。

手ずから葬る日々を蠢く。


――そんな魔王についぞ訪れた終わりの日は、雨が降っていた。


「……なに、――これ」


困惑する脳、体外へと流れ出る命脈の赤。

地面に仰向けに横たわる自分。

呼吸を続ける事、ただそれだけしか出来ぬ体。


そのどれを取っても、理解出来ない。

この現状が、この状況が、この――――。


「私の勝ちですね~」


まるでその朗らかな声に比例するようにゆっくりと、少女が顔を出した。

白色の髪をベースに、毛先が赤、青、緑、黄色、紫、黒、ピンク――言い出してもキリが無い程に多種多様な色が入り乱れた異質な髪色を持った糸目の小柄で、異質な存在。


「あ、あはハ。あはハはハハハははっッっ――――――――――――――――――」


その言葉を聞いた瞬間、私の呼吸しか出来ぬ体は狂ったように笑い声を発した。

それは、彼女が私を見下ろし鼻につく声で勝ち宣言をしたからではない。

自分が今置かれている状況がようやく理解出来たから――だからこそ、笑った。


「負け、負け、負け!!負けた!!負けた!!」


血反吐を吐きながら、まるで狂喜乱舞するかの如く負けを噛み締める。


どうしてだろ……もうすぐ死ぬって分かってるのに、気持ちが、鼓動が高まる。

負けたのに、見下ろされているのに――この私が、魔王が、理不尽が、死んで、時代が移り変わるというのに!!


「これはこれは、やはり魔王様には恐怖を覚えますね~」


とてもそう思っているとは感じぬ、先ほどと変わらない朗らかな声色。

思い返してみれば、戦闘中の彼女から私は焦りや怒り等という感情を引き出す事すらできなかった。


……いや、その理由は薄々察しがついている。


「私はお前の方がっ、――余程恐ろしい存在に見える、けどねっ」


しかし、それと同時に私には……哀れな存在に見える。

それは――薄々ではありながら、彼女の正体について見当がついているから。


「にしても、可哀想な人間だね。大方、お前の正体は生者の体に、死人から摘出した“魔術”を埋め込んで、膨大な魔力と莫大な力を獲得させた人間兵器って所かな、可哀想可哀想」


少女の境遇をあざけるように、私は言った。

……いや、本当はこの少女にではなく、こんな事をさせた人間を嘲りたかったのかもしれない。


「――ッ!!」


その時、彼女の目が大きく見開いた。

まるで長い悪夢から目覚めた時のように、大きく。


「かわ…………う」


先程までの声色ではない、体の持ち主その人の声。


「あ、あぁ……――じゃあ、救ってよ…………可哀想だって、思ってくれるなら――」

「っ!?!?!?!?!?!?」


それは、唐突であった。

彼女の体と、私の体が光りだし、熱を帯び始めたのは。


「これは…………」


今まで生きてきて、類を見ない出来事。

恐らく、これも彼女の力の一端であるのだという事は理解しているが、その効果までは皆目見当もつかない。


「救って、私を殺して、解放して、苦しめないで、救って、殺して――」


頭を抱え地面に座り込みながら、一心不乱にその気持ちを吐露する少女。

そんな彼女を見て、私は心の底から疑問を持つ。


「どうして?圧倒的な強さを持っているのなら、自分を苦しめる人間も、自分が気に入らない人間も、全員全員ぶち殺せるのに」


しかし、その問いの返答は悶え苦しむ彼女からは返って来ない。


「おっと」


そんな間にも、彼女の力は私の体を蝕んでいた。

足の先から徐々に、体が粒子となって掻き消えていく。


「…………消滅の力?」


否、痛みは無い。

それに、先ほどから感じる熱も心地の良い、まるで毛布にくるまっているかのような感触。


「……まっ、そんな質問の回答なんていいや。私もう死ぬし」


彼女から受けた攻撃は、私の命まで確実に届いている。

そして、この消滅のような力。

どうにも、私は存在すら残らないのだろう。


「でも、もし仮に私が生きてたら――誰よりも先にお前の事殺してあげるから、その時は感謝してよ」


――――そうしてこの日、理不尽の魔王と呼ばれた私の人生には、幕が下りた。

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