第64話 トラブルにつぐトラブル
連日発生しているリゾート地での不祥事。
そのせいもあってか、トリシア会長曰くいつもよりここを訪れている人が少なくなっているという。
「夏の休暇をこのリゾート地で過ごそうと計画をしていた者たちのキャンセルが相次いで発生したとセネットが嘆いていましたね」
「それは大変そうですね」
セネットさんって、アンナがハートランド家のプライベートビーチに迷い込んだ際、周りの人たちをかばっていたリゾート地の責任者だったか。
ある意味、今回一番の被害者は彼だよなぁ。
こうもトラブル続きで悪評が出回ってしまうと、今後の仕事に悪影響となるのは間違いないだろう。
うちも商会として外面だけはよくしておかないとな。
ちなみに、俺とトリシア会長はハートランド家の別荘にあるバルコニーで夕食後のひと時を過ごしていた。
コニーとクレアはルチーナも交えてカードゲームをやっているようだが、ルチーナのポーカーフェイスぶりに翻弄されて苦戦を強いられている様子。なんかめちゃくちゃ盛り上がっているからあとで参戦してみよう。
それと、昼間に町を混乱させたあの男性とは明日の朝に会える予定となっている。
トリシア会長がハートランド家の強権を発動させてアポを取ってくれたらしい。
どうしてそこまでしてくれるのかと尋ねたら、「わたくしも興味がありますの」とあっさりとした返答をくれた。
「それにしても、あなたも物好きですわね。バカンスに来てまでそんなことが気になってしまうなんて」
「申し訳ありません。せっかくの楽しい気分を台無しにしてしまうような行いを……」
「わたくしは気にしておりませんわ。あちらのふたりは……まあ、それでも、あなたが望めば地の果てまで一緒についていくでしょうから、表面上は不満を感じつつも理解をしてくれるはずですわね」
そこまで読んでいたのか、トリシア会長は。
こうなると、彼女があの男をどう思っているのか、ちょっと興味が湧いてきた。
「会長はあの男をどう見ますか?」
「彼の服装や手にしていた短剣など、怪しい点はいくつかありますが……あなたの話を耳にしてふとこんな話を思い出しましたわ」
「ほう。それはどんな話なんですか?」
「このリゾート地ができる前――かつて広大な森が広がっていたそうですが、そこに住んでいた人々を力で従わせ、強制労働をさせた挙句に追いだしたというものですわ」
あぁ……その手の話は前世でも耳にしたなぁ。
日本でも立ち退きで揉めることは珍しくなかったし。
ただ、この世界の場合は力でねじ伏せてしかも捨てるように追いだしてしまうなんて。
「トリシア会長はその時の生き残りが復讐に来たと?」
「あくまでも憶測ですわ。そもそも、その強制労働という噂が真実かどうかも証明できませんし」
確かにそうなんだよなぁ。
まあ、とにかく明日になればすべてが分かる。
それで万事解決してくれたら、残りはすべてバカンスを楽しむことに集中しよう。
◇◇◇
翌日。
この日は午後から海に出かけることにして、午前は自警団の詰所を訪れていた。
トリシア会長の計らいで町中に現れた男から話を聞ける――はずだったのだが、その詰所の周りが何やら慌ただしい。
走り回っている兵士のひとりを捕まえたトリシア会長が事情を尋ねると、彼は青ざめた表情で語った。
「き、昨日捕まえた男が逃走したんです」
「逃走?」
バカな。
短剣こそ装備していたが、あんなのはすぐに没収されただろうし、魔法が使えたようにも見えなかった。
となると……脱走を手引きしたヤツがいるな。
こいつはいよいよキナ臭くなってきたぞ。
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