第56話 バカンスへ
夏休み突入初日。
俺とコニー、そしてルチーナとクレアは宿泊用の荷物を手にしたまま寮の前に立っていた。
眼前にはハートランド家の屋敷から来た馬車が並んでいる。
「凄い数だな……」
「なんでも、トリシア様のお召し物やティーセットなど荷物が大量にあるようで」
ルチーナがそう解説をしてくれたが……それにしても多すぎやしないか?
呆然としていると、そこにトリシア会長が大勢のメイドを引き連れて登場する。
「あら、お早いですわね」
「ご招待していただくのですから、お待たせするわけにもいきませんしね」
「ふふふ、相変わらず真面目ですわね」
楽しそうに笑いながら、トリシア会長は口元を手で押さえた。
……心なしか、いつもよりテンション高めか?
やはり会長も夏休みを心待ちにしていたらしい。
そこは普通の学生と変わらないな。
「さあ、みなさんが乗る馬車はこちらですわ」
ハートランド家の凄さをまざまざと見せつけられながら、俺たちは専用の馬車へと乗り込むのだった。
◇◇◇
王国南部は有名なリゾート地となっている。
観光資源が豊富にあるその辺りには貴族や富裕層の別荘が数多く存在しており、中でも一部地域は特別区扱いされており、厳重な警備を通過しなければ中へ入れないほどのセキュリティーが敷かれていた。
ハートランド家の別荘もその特別区の一角にあった。
「潮風が気持ちいいね、クレアちゃん!」
「えぇ、本当に」
はしゃぎながら馬車の窓の外に広がる光景を見つめているコニーとクレア。
対面の席に座る俺とルチーナは、その微笑ましい光景を眺めて「うんうん」と頷いていた。
それにしても……まさかこの特別区に入れるとはな。
うちのギャラード家やクレアのメルツァーロ家でさえ入れなかった領域――ここに別荘を建てることが、権力の強さを示していると言って過言ではない。
いつか、俺もここに別荘を建てない。
ふたりの様子を見ているうちに、そんな新しい野望が芽生えていた。
これもまたひとつの力の象徴。
今から楽しみだよ。
しばらく移動が続き、やがてたどり着いたのはおよそ別荘とは思えない大豪邸だった。
「ようこそ、我が別荘へ」
先行していた馬車から降りていたトリシア会長が俺たちを出迎えてくれた。
「ありがとうございます、トリシア会長」
「お礼なんていりませんわ。学園長先生もおっしゃっていたように、これはメルツァーロ家の一件を解決に導いてくれたあなたへのお礼。遠慮せず楽しんでくださいな」
学園で見るよりもずっと砕けて穏やかな表情を浮かべるトリシア会長。
もしかしたら、彼女が一番バカンスを楽しみにしていたのかもしれない。
「まずは屋敷をご案内しますわ。それから裏手にあるプライベートビーチへ遊びに行きましょう」
「「プライベートビーチ!!」」
今度はコニーとクレアのテンションが上昇。
このふたりも相当楽しみにしていたようだな。
「レーク様ははしゃがないのですね」
女子たちを見つめていると、ルチーナがそう尋ねてきた。
「まさか。俺だってとても楽しみにしていたんだ」
「その割にはあまり顔や態度に表れませんね」
「バカ騒ぎしてほしかったか?」
「そういう一面も見てみたかったですが」
よく言うよ。
まあ、今はともかく……ビーチへ行ったら冷静ではいられないかもしれない。
みんなの水着姿が拝めるからな。
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