第48話 ウォルトン、その実力

「その程度ですか」


 俺は迫りくる雷撃と風の刃を必要最低限の距離でかわしていく。


「っ!? バ、バカな!?」


 ウォルトンが脳内で描いている世界では、きっともう決着はついているのだろう。

 俺のボロ負けに終わり、大衆の面前で生き恥を晒している光景を想定していたようだが、残念ながらそれは実現しない。


 這いつくばって地面を舐めるのがどちらになるのか。

 ヤツの残念な知能でもそろそろ理解できた頃かな。


「お、俺の攻撃が当たらないはずがない! 魔草だ! 魔草が悪いんだ! この俺の思い描いたような結果を出さない魔草がすべて悪いんだ! この役立たずがぁ!」


 ここへきてもまだ自分の実力不足を認めないか。

 クレアの仕事は完璧だ。

 それを扱いきれないウォルトンの方に責任がある。


 ……まあ、あの様子じゃ一生認めないんだろうけどな。


 取り乱すヤツまでの距離を一気に詰めると、俺は拳を強く握りしめる。


「クレアが負った心の痛みをおまえの体に刻み込んでやる」

「ひっ!?」


 短い悲鳴をあげ、両腕をばたつかせてガードをしているつもりなのだろうが……そんなみっともない動きで止められるはずがない。


俺は渾身の右ストレートをヤツの顔面に叩き込む。


 右の頬に拳がめり込み、体は捻じれるように回転しながら吹っ飛んでいく。

 

 まずは文字通りの先制パンチ。

 これで幾分か気持ちがスッとした。


 さあ、ここからが本番だ。


少しずつウォルトンを煽り、ボロを出させつつもプライドをズタズタに引き裂く。

ヤツがクレアにしてきたことを後悔するまでやめるつもりはない。


 とりあえず追撃をしようと近づこうとした――すると、突然数人の学園職員たちがステージへとあがり、倒れているウォルトンへと駆け寄った。


 おいおい、まさかここまで露骨にヤツを擁護する気か?

 時間を稼ごうって魂胆なんだろうが無駄なことだ。


 しばらくすると、ひとりの職員が腕で大きな「×」印を描く。


「えっ?」


 ま、まさか……込み上げてくる嫌な予感は現実のものとなった。


「勝負あり! レーク・ギャラードの勝利!」


 トリシア生徒会長が勝利者として俺の名を叫んだ。

 ……いや、ちょっとまて!?

 こっちはまだ実力の三割も出していないんだぞ!?

 まだ準備運動レベルだったのに!?

 いくらなんでも弱すぎるだろ!?


 今度は俺が困惑する番だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る