第36話 加速する勘違い
コニーの体調不良の原因が分かったところで、それに対応するための策を練らなくてはならない。
ポイントとしては「魔力を封じる」という点か。
ただ、封じるとなると語弊がある。
封じるのではなく、うまく制御できるようにしなければならない。
ここが重要視されるだろう。
事実が発覚した次の日。
運良く休日に当たる日だったので、俺とルチーナは早朝から工房へと足を運んだ。
ちなみになぜかクレアの姿もあった。
理由を尋ねる魔道具づくりに興味があるらしい。
昨日はそんなこと言っていなかったような……まあ、いいか。
とりあえず、今日中に完成を目指さなくてはいけないからな。
早速作業へと取りかかろう。
「魔力を調節できるアイテムとなると……やはりこいつが必要か」
「それは?」
「魔封石だ。名前を聞いたことくらいあるだろう?」
「え、えぇ」
魔封石はその名の通り、魔力の効果を封じる力がある。
ただ、封じるというとやや過剰な表現だな。
この場合は魔力を弱めるとした方が適切かもしれない。
ともかく、今のコニーの症状にはうってつけのアイテムと言えた。
「ま、魔封石の力は私も知っているし、あなたの言うように今のコニーさんにはピッタリの効果だと思う……だけど、問題は誰がどうやって加工するか……」
「その点はすでに策を練ってある。――ルチーナ」
「お任せください」
俺の声に反応し、作業台へと移動するルチーナ。
彼女の動きを目で追うクレアは昨日とは違った雰囲気を醸しでいると気づき、そっと俺に尋ねてきた。
まあ、服装も今日はメイド服ではなく作業着だし、違和感は最初からあったのかもな。
「ね、ねぇ、レーク……あの人って何者?」
「俺の専属秘書兼メイド兼ギャラード商会の大事な鍛冶職人だよ」
「肩書多すぎぃ……」
消え入りそうな声でドン引きするクレア。
正直、それについては俺も同感だが事実なので仕方がない。
ちなみに、ルチーナとは魔封石をどのように加工するかはすでに打ち合わせ済みだ。
あまり大掛かりな物を作っては時間がかかるし、魔力を抑える効果が強すぎてしまうとせっかくのコニーの持ち味が消滅してしまう危険性もあった。
なので、重要になってくるのは「加減」だ。
ちょうどいい塩梅で魔力を制御できるようにする――言葉にすれば短く簡単だが、これを実際にアイテムとして形にするのは至難の業。
だが、ルチーナならばそれも可能。
かつて王都でも腕利きの職人としてならし、悪徳商人に騙されていなければ未だに健在だったろうその腕はまったく錆びてはいない。
素早く、それでいて正確に。
さらには素材の力を存分に引きだせるようアイテムを作りあげていく。
その工程の鮮やかさはまるでダンスのような華麗さをともなっている。
「す、凄い……」
これにはクレアもただただ茫然とするしかない。
やがて完成したアイテムは――指輪だった。
「お待たせいたしました、レーク様」
「ご苦労様」
魔封石を宝石に見立てたこの指輪なら、常時はめていても問題はないだろう。
特にコニーはこういうアクセサリーが好きらしく、ガノスでの一件が終わってからもあそこにあるうちの系列商会でたまに買っているらしい。
「そ、その指輪をコニーさんに送るの?」
「当然だ。彼女の魔力熱を下げるには必要な物だからな」
「……別の熱が上がっちゃいそうな気がするけどなぁ」
「? どういう意味だ?」
「ナンデモナイヨ」
変なヤツだな、クレアは。
昔から大人しかったとはいえ、ここまでじゃなかったような気がするのだが。
……まあ、いい。
とにかく完成したようだし、早速こいつをルチーナに届けてもらおう。
本来なら俺が直接渡したいところではあるが、女子寮には入れないからな。
――だが、ここで予想外の事態が発生。
「うん? 来客か?」
一瞬、工房の窓に人影が写った気がした。
工房は朝一で使用許可をもらっているので咎められることはないはずだが……気になって外に出てみると、そこには意外な人物の姿が。
「っ!? コ、コニー!?」
「あっ……レーク様ぁ……」
そこには制服を着込んだコニーが立っていた。
「どうしてここに! 安静にしていなくてはダメだろ!」
「何か……レーク様の役に立ちたくて……」
体調不良は解消されていないはずなのに、俺への忠誠心でここまできたというのか。
ふっ、ますます気に入ったぞ、コニー。
「あとでルチーナに届けてもらうつもりだったが……よかった。本音を言えば、俺の手で直接渡したかったんだ」
「渡す? 何をですか?」
「これだよ」
俺は魔封石をはめ込んだ指輪をコニーへと差しだした。
「えっ!? ゆ、指輪!?」
途端に曇っていた瞳が輝きを増した。
やはり好きなアクセサリーを送られて興奮しているな。
「(魔力安定のために)受け取ってほしい」
「ほ、本当にいいんですか……私なんかが受け取っちゃって」
「もちろんだ。(効果がないから)君以外に渡すなんて考えられない」
「レーク様ぁ……」
よほど嬉しかったのか、コニーは泣きながら指輪を左手薬指に装着。
注目の効果は――
「あ、あれ? なんだか急に体調が良くなってきました」
「どうやら成功のようだな」
「せ、成功?」
キョトンとした顔で尋ねてくるコニーに、俺は指輪を作るまでの経緯を最初からすべて包み隠さず伝えた。
「つまり……この指輪は……私の体調を気遣って……」
「当然だ。おまえは俺にとって(商会運営のために)欠かせない存在だからな!」
「っ! レーク様! 私この指輪を一生大切にします!!」
「大袈裟だなぁ、コニーは」
いつもの調子に戻ったコニーの様子にご満悦の俺。
ただ、クレアは微妙な表情。
もしかして、彼女も指輪が欲しかったのか?
また今度いい魔鉱石が手に入ったらルチーナに作ってもらうとするか。
ちなみにそのルチーナが実に満足げに何度も頷いていた。
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