8 初めてのクエストは採集クエストと相場が決まっている
……ああ、凄い疲れた。ほとんど俺のせいだが。勝手にこっちが墓穴掘って勝手に疲れただけだけの自業自得だ。
「はぁ……」
とりあえず今日はもう帰ろうかな。
「なあ、そこの嬢ちゃん。……なあおい、待てって」
「……?」
「そうそう」
死に物狂いで挑んだ冒険者登録も無事に済んだので宿へ帰ろうとしたその時、厳つい見た目の男に声をかけられた。
見た目がステラのそれになっていることにまだ慣れていないせいで俺に声をかけているのだとすぐに認識出来なかったものの、俺が自らに指を差すと彼が頷いたので間違いないっぽい。
「な、なんでしょうか?」
出来るだけ彼を刺激しないようにゆっくりと近づいて行く。
厳つい見た目の男に女の子が呼ばれたらさあ、ろくなことにならんのは確定的に明らかだよなぁ……。
さて、一体どうやって逃げ出したものか。
「盗み聞きしたみたいで悪いけどよ。嬢ちゃん、スキルの保有数がべらぼーに多いんだってな?」
「……はい」
今から取り繕ってもきっと状況を悪化させるだけだ。
なら素直に認めた方がまだ良いに決まっている。
「おお! それなら鑑定のスキルを持っていたりするか?」
「鑑定……ですか」
鑑定スキルはゲーム内にもあった。
アイテムなどに設定されている普通は表示されない隠しステータスを確認できるスキルで、主に商人系の職業で習得できるものだった。
あとは初めて見るアイテムも見ただけで名前や説明を確認できるというのも鑑定スキルの強みの一つで、採集系のクエストを受ける場合に一人いてくれると効率が段違いになる。
だが、生憎と俺はそれを持っていなかった。
「すみません、持っていないですね。お力になれなくて残念です」
「そうか……。俺の友人の魔術師がよ、欲しい薬草があるって言ってたんだが……すまなかった、忘れてくれ」
薬草……だって?
それなら俺でも助けになれるかもしれない。
「いえ、薬草なら助けになれると思います」
「本当か!?」
男は身を乗り出して叫んでいた。
きっと、それだけその友人のことを思っているのだろう。
「薬草学のスキルを持っているので、よほど珍しいものでもなければ大丈夫だと思います」
魔法系の職業が持つスキルの中には、生産職のように薬草などの素材から魔道具を作り出すものも存在する。
なので魔法系の職業をマスターしている俺はそう言ったスキルも持っている訳だ。
まあ使うかは別としてね。それにスキルレベルは特化型に比べれば幾分か低くはなってしまう。
「おお、そいつは助かるぜ。んじゃ一緒に依頼を受けて、早速探しに行っちまおうぜ!」
そう言うと男は慣れた手つきで掲示板から張り紙を取り、受付嬢に差し出していた。
恐らく冒険者としての歴は結構ありそうだ。
初めての依頼がこんな形になるのは少々不安だが、手練れの同行者がいることを考えると一人で行くよりも安心なのかもしれない。
とにもかくにも、異世界に来て初めてのクエストが今始まるのだ。
――――――
村から少し歩いた所にある森へとやってきた俺たちは、早速クエストの目的である「赤薬草」を探し始めた。
ゲームではごく一般的な回復ポーションの材料と言う設定があったこの薬草だが、実際に集めようとすると少々問題があった。
普通の薬草と違ってそもそも数自体が少ないうえに、スキル無しでの判別が物凄く難しいのだ。
ゲーム内ではスキルの無いプレイヤーが集めた物はほとんどただの薬草だったりしたのだが、幸いにもこの赤薬草は俺の薬草学のスキルレベルでも判別可能だった。
「ありました」
「おう、背中は任せてくれ。嬢ちゃんはその間に回収を頼んだぜ」
と、こんな感じに赤薬草を見つけては彼に守ってもらっている間に回収……っと、こんな感じの流れを何度か行っていき、気付けば十分な量が集まっていた。
スキルの発動についてもどうやらパッシブスキル系は常時勝手に発動しているらしく、何かを意識する訳でもないようだった。
「これだけありゃあ十分だろうよ。さて、そろそろ帰るとするか」
日も暮れ始めていて、これ以降は危険が危ない時間帯となるだろう。
ゲームでは夜間は魔物が強くなる仕様があったため、こっちでも同じだったら不味いことになる。
上位プレイヤーは経験値も一緒に上昇するこの時間帯を意図的に狙っていたりするが、今の俺は生身だ。危険を出来るだけ排除するに越したことはない。
「嬢ちゃん、下がってろ」
しかしそう上手くはいかないようで、魔物は俺たちの前に姿を現してしまった。
「あれは……ポイズンスネーク?」
「おお、今朝冒険者登録したばかりのようだが、一目でアイツがわかるとはな。中々大したもんだ」
「まあ……見慣れてますので」
薄暗い森の中でもエルフの目は鮮明に世界を見ることが出来た。
その結果、今俺たちの前にいる魔物がポイズンスネークであることもはっきりとわかる。
名前の通り毒を持つ蛇型のこの魔物は、まさに見た目通りな攻撃をしてくる。
噛みついてくるし、毒を飛ばしてくるし、巻き付いてくる。
レベルは確か8かそこらだったか。序盤以降ほとんど戦うことは無いから忘れてしまった。
「向こうの数は1、少なくともこちらから仕掛ければ有利をとれる。嬢ちゃんは周りを警戒しながらそこで待機していてくれ」
そう言うと彼はポイズンスネークへと突っ込んでいった。
だが無策なそれでは決して無い。
計算された歩幅で移動し、常に奴の真正面には入らないようにしている。
毒を飛ばしてくる攻撃は側面にいれば当たらず、同様に巻き付きや噛みつきも一定距離を常に維持すれば回避は容易なのだ。
彼の動きはまさに百点満点のそれだった。
「よおし、こいつを食らいやがれってんだ!」
そしてポイズンスネークが隙を見せた瞬間に剣を振り下ろし、奴の首を斬り落とした。
何と言うか、滅茶苦茶手慣れていた。
この世界で何度も戦って来たのだと言う事がひしひしと伝わって来る。
「無事か? 嬢ちゃん」
「ええ、おかげさまで」
「また新手が来ると面倒だ。さっさと帰っちまおう」
彼の言う通りだな。俺も、彼自身も、この辺りに出る魔物にやられるような冒険者でないことは事実だろう。
だが油断や慢心は全てをひっくり返す程の致命的なものとなり得るのだ。
自らの力を過信せず適切な判断を行う彼の行動方針を、絶対に忘れないようにしよう。
……と、そう思った矢先の事だった。
「な、なんだアイツは!?」
「グルルゥ……アオーーン!!」
俺たちの目の前に、明らかにヤバそうな魔物が現れたのである。
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