7 冒険者登録
「まずはこちらの登録用紙に必要事項をお書きください」
受付嬢はそう言うと俺の前に紙とペンを差し出した。
名前……そうか名前か。
流石に日本での名前は目立つよな?
ならばここはキャラ名であるステラのものを使うべきか。
次は保有スキル……いや、スキルって言っても滅茶苦茶な数あるんだが……?
ステラはサブクラスとして魔法系の職業をあらかたマスターしている。
そのため保有しているスキルはざっと数百に及ぶだろう。
けどこの登録書類には全部書けるだけの隙間は無いしな……。
「あの、保有スキルと言うのは?」
まあこういう時は聞いてみるに限る。
聞かぬは一生の恥と言うしな。
「お持ちのスキルを書いていただければそれで構いませんよ。そうですねー……例えば魔法を使う方でしたらファイアボールだったり、戦士の方でしたらソードスラッシュ辺りを書く方が多いです」
ファイアボールもソードスラッシュも、どちらも初心者御用達の基礎的な戦闘用スキルだ。
この街周辺の敵はそこそこ固いから通常攻撃が通らなくなって、皆だいたいはこの辺りのスキルを使って本格的にレベリングを始めることになる。
ああ、なんだか懐かしさすら感じるなぁ。
とは言っても序盤のレベリングに関しては度重なるバージョンアップでかなり簡略化されたりもしたものだが。
今じゃ特定レベルまでは経験値効率が数十倍とかになるんだったか?
凄い時代になったものだな。
と、それは置いておくとして。
ここでそんな基本的なスキルを言って来たということは、要はメインで使うものを書けばいいということなんだろう。
あっでもメインで使う物も割と複数あるな……。
狩りをするときは範囲攻撃魔法のロストブリザードとメテオをクールタイムを良い感じに調整して交互に撃ってるし、強敵相手なら弱体化デバフを撒いた後に単体用の高火力魔法を使っている……。
普段使いだけでもざっくり数えて20種類くらいはありそうだ。
「えっとすみません、入りきらない場合はどうしたら」
「は、入りきらない……?」
……俺の言葉を聞いた瞬間、受付嬢は変な声になりつつそう言った。
俺、何か変なことでも言っただろうか?
「それって、それだけの数のスキルを持っているということでしょうか……?」
「はい、主に使用しているものだけでも20種類程ありまして」
「に、20!? え、あの……本当なのですか?」
受付嬢はおっかなびっくりといった様子でそう言う。
正直これでも少ない部類な気はするんだがな。スキルパレットに登録できる数は1つにつき10種類。それを4つほど使い分けている人もいると聞く。
俺みたいに雑に火力を振りまくタイプの脳筋ビルドは使用スキルが少ない方なのだ。
と、その時だ。俺はある重要な事を思い出した。
先程、魔法を試し撃ちした時の事……勝手にMPを大量消費して魔法の威力を上げていたあれだ。
もしも……もしもだ。あれと同じような事が、スキルの数でも起こっているのだとしたら?
この世界の基準が、ゲーム内と大きく違っていたとしたら?
「……いえ、なんでもないですー♪」
この間、約0.2秒。超速思考によって導き出された俺の答えは……「何も無かったことにする」だ。
「その、今更それは無理があるのではありませんか……?」
ノータイムでそう返って来た。
まあ、そうなるな。
「すみませんでした! 全部嘘です、冗談です! ちょっと強がってみたかっただけです若気の至りと言うやつで!」
何が若気の至りだ。こちとらおっさんやぞ。
だが今はこの苦し紛れの嘘を押し通すしか無かった。
ここで引き下がるわけにはいかないのだ。
その後、しばらくの攻防を経て……。
「……わかりました。今の事は聞かなかったことにしますね」
「ありがとうございます!!」
俺は無意識的にとても奇麗な90度のお辞儀で受付嬢に感謝を示していた。
業務で染みついたこのお辞儀が、まさかこんなところで役に立つとは思わなんだ。
途中、レベルを書かないといけない所でそのままカンストレベルを書こうとした時は自分の脳を疑ったものの、これでひとまず冒険者登録は完了だ。
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