8.闇バイトって何なの?

「闇バイトってやりたいと思う?」


葦附が唐突に不穏なことを言い出した。


「思わない。斡旋業者か?」

「いやいやいやそんなわけないない!聞いてみただけだよ、興味あったりするかなって。」

「あるわけがない。」

「うぅん、興味無くはないかなぁ。もちろん、やりたいってことじゃなくて、引っ掛からないために知っておきたいということでぇ。」


あぁそっちの意味では確かに無くはないかも。


「なんでいきなりそんなことを?」

「さんざんネットやらニュースやらで言われてるじゃん。それでどうかなって。」

「どうかなとは何だ。」


導入が雑だぞ。


「闇バイトねぇ。名前だけは聞いてるけど、自分には関係無い、どうせやらないからって、その詳細まで追うことはしてなかったかもねぇ。」

「そうそう!私もどんなバイトなのかって知らないから。ちょっと知っておきたいなって。」

「バイトですらない犯罪だろ、あんなの。まぁ今後騙されないために知っておくのはいいかもだが。」

「詐欺と一緒で、まず知っておかないと防ぎようもないからねぇ。じゃあちょっと調べてみようかぁ。」

「うん。」

「いいぞ。」



「それで闇バイトってどんなことをするの?どうやって始めるの?誰がするの?どうしてしちゃうの?したらどうなるの?」

「一辺に言うな。一つずつだ。」

「闇バイトの語義としては、SNSやインターネット掲示板で『短時間で高収入が得られる!』みたいな甘い言葉で仕事の募集をかけて、その実態は犯罪行為に加担させるものを指すみたいだねぇ。」

「『バイト』って言うのに犯罪なんだよね。」

「そうだな。運び屋とか特殊詐欺とか名義貸し、行くところまで行くと強盗とか殺人とか、そんなことまでやらせるそうだ。世も末だな。」

「いくらお金貰ったってそんなの嫌だよ…捕まって刑務所に入れられちゃったら、お金が沢山あってもどうしようもないもんね。」

「あと特殊詐欺っていうのは、色んな知能犯罪のことで、振り込め詐欺とか架空請求詐欺とかのことだねぇ。詐欺の電話をかける『かけ子』、カードやお金を受け取る『受け子』、カードからお金を引き出す『出し子』なんかがよく募集されてるそうだよぉ。末端の使い走りってとこだねぇ。」

「誰でも出来るような簡単な仕事だから、罪を自覚しにくくて心理的ハードルが下がるのかもな。」

「悪いことかもって初めからちゃんと疑ってかからないといけないね。『名義貸し』って?何?」

「銀行口座の開設とか携帯電話の契約とかを代わりにやることだ。」

「それで、口座とか作った後は?どうするの、それ?」

「犯罪に使われるねぇ、確実に。口座はマネーロンダリングなんかに使われちゃう、犯罪で手に入れたお金を、色んな口座を行き来させて行方をくらませちゃうんだよぉ。」

「携帯は特殊詐欺の連絡用に使われるな。漫画やドラマだと『飛ばし携帯』なんて言われたりするアレだ。」

「アレかぁ…確かに犯罪する人が使ってるもんね。そっかぁ、作るだけでも犯罪かぁ…」

「それに名義は自分だから、犯罪に利用されたら真っ先に疑われるしな。」

「一時のお金で一生残る罪を背負う、余りにもリスクリターンが見合ってないよねぇ。」

「うん、やっぱり駄目だよ。いいことなんて一つも無いから。」



「それで、どうやって闇バイトを始めるか、そのきっかけということだが。」

「SNSとか掲示板で募集されるって話だよね?」

「参考までに、令和五年一月から七月末までに検挙された特殊詐欺の被疑者、彼らに経緯をヒアリングした警察庁の調査結果(※)があるよぉ。全部で1,079人だねぇ。」

「特殊詐欺全体だから、これ全部が闇バイト発端ってわけでもないか。参考だな。」

「それで約半数は『SNSからの応募』だねぇ。これが所謂闇バイトで募集されて、実行してしまった人達に該当するんじゃないかなぁ?」

「やっぱり誰もが使って目にするもので募集するのが一番手っ取り早いか。」

「それでも半分なんだ…次に多いのは『知人等紹介』が28%だよ!危ない人と付き合いがある人がやっちゃうのかな?」

「そうなんだろ、先輩が半グレとかヤクザとか、類は友を呼ぶ的な。」

「気になるのは、5%と少ないけど『求人情報サイト』が含まれてることだよねぇ。」

「ちゃんとしたサイトやアプリから応募したはずなのに、実はそこに闇バイトが紛れてましたとなると、運営会社の信用問題になる。闇バイトはそう意味でも有害だな。」

「どこにでも闇バイトの誘惑はあるんだね、本当に注意しないと。」



「実際の募集はどんな感じなんだろ?『闇バイトあります!』とか?」

「そんな露骨なもんか?」

「いやでも、当たらずとも遠からずかもよぉ。以下で実際に投稿された募集の文面を見てみようかぁ。」


(※)

 ※誰でもできる簡単な仕事


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 場所➡都内近郊

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「うわぁ…これは…」

「いかにも過ぎて酷いな。隠す気ゼロじゃねぇか。」

「もう一個見てみようかぁ。」


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「こっちもなかなかだな。闇バイトって言っちゃってるし。」

「こんなのがSNSに溢れてるんだ…子供達に悪影響も悪影響だよ!」

「じゃあこの二つを比較しつつ、どういうところが闇バイトたる所以か、確認してみようねぇ。」

「そもそもSNSで個人が募集かける時点で怪しさ満点だけどな。」

「一旦そこは置いておいてぇ、字面だけで見てみようよぉ。」

「まず、お給料がおかしいよ!一日で5万円、8万円って高過ぎるよね?」

「異常だな。2万円でも普通の会社員の日給以上ある、バイトにしちゃあ高過ぎだ。それと、時給が表示されてないのも嫌だな。」

「え?何か変なの?」

「一件一件の作業が終わらないと報酬が確約されない、成果型なところが気にかかる。コンビニとかスーパーのバイトだったら時間で給料が貰えるだろ?反対に時間に関わらない、日給とか達成件数とかの報酬になっていると、その分闇バイトの可能性が高いと感じてしまうな。まぁ極論かもしれんが。」

「確かに、運びとか詐欺とか強盗とか、そういう犯罪行為をやらせるんだったら、何もせずに時間だけ経った人に、お金を払う訳ないもんねぇ。」

「じゃあ時給のアルバイトだけから選べば、わりと安心だったり?」

「だから極論なんだって。時給でも闇バイトはあるだろうし、日給でも普通のはあるだろう。一部にそういう傾向があるってだけだ。」

「そっか…じゃあ、他に見分けるポイントは…」

「いっぱいあるな。」

「あるねぇ。どこぉ?ん

「あ、ほら、実際にするお仕事について何にも書いてないよ!流石にどんなお仕事なのかは事前に知りたいのに!」

「当然だな。この時点で公には言えないことしますって書いてるようなもんだ。それで実際には犯罪をさせられるって訳だ。」

「それに書いてあったとしても『段ボールの運搬』『電話受付』みたいに誤魔化してあるから、タチが悪いよねぇ。」

「段ボールの運搬は、中身が危ないものとかなんだろうけど、電話受付って…あ、そっか、詐欺の電話か。」

「無駄に普通そうな言葉使って誤魔化してるところが余計腹立たしいな。」

「他にはどう?何がある?」

「『完全ホワイト』とか『リスク面徹底』とか一々言ってるところ!逆に何かあるって疑っちゃうよ!」

「場所の指定が出来ないのもおかしい。『全国どこでも』ってなんだよ。それじゃあ本来は在宅しかありえないだろ。それならそう書けよって話。」

「事業所の連絡先とか、HPのリンクとかが無いのも駄目だよねぇ。やっぱり個人でそんな高給払うのってなっちゃうからぁ。」

「それに詳しくはDMで、か。投稿への返信じゃ駄目なのか。やり取りを一切他に漏らしたくないんだな。その後は何かのメッセージアプリに誘導してひそひそ話するって感じか。」

「あと、この投稿が検索に引っ掛かりやすくなるように、最後に色々とワード付け足してるのが、これまたいやらしいよねぇ。」

「『日払い』『仕事紹介』とか、普通に調べる人は多そうだ。『生活保護』は最低だな。受給する人を釣ろうとしてる。」

「『お金に困っています』もそうだし、人が困ってるところにつけ込むなんて…どうか受給する人はこんなのに引っ掛からないで欲しいなぁ。」

「引っ掛かってるからニュースになるんだろ。残念だが。」

「そっかぁ…」


しょんぼり葦附。相変わらず慈愛に満ちている精神だこと。そっとしておこう。


「募集はこんな感じだねぇ。じゃあ次は、どんな人がこれをやっちゃうのか見ていかない?」

「あ、ちょっとちょっと待って。さっきのワードの中で気になるのがまだあるんだけど。」

「おっと、それはそれは失礼しましたぁ。何ですかぁ?」

「『pj』『p活』って何?」


ピシィ

俺と古城が固まる。俺達は察しがついている。アレのことだ、女子高生がおじさんからお金貰ってイケナイことするやつ。だがそのまま伝えていいものか?この純粋朴念仁に?いや流石に舐め過ぎか?言えば普通に分かってくれるよな?いやいやでも、もし「イケナイこと」って何?とか聞かれたらどうする?それこそ返答に詰まって雰囲気がガッタガタになる。でもそんな小学生並みの性知識なことあるか?いやいやいやあり得るか、葦附のことだ。どうする…どこまで説明すべきか…


ちら

古城を見やる。

古城は、目線を左右に動かしていた。


(これ以上はよろしくない。)


そう言っている気がした。

よろしくない了解。だったらここは俺が行こう。


「さぁな。何かの略語じゃないか?そんな気にしなくていいだろ。次行こうぜ。」

「えぇ?いいの?古城さんも、知らない?『pj』『p活』って。」


あんまり口にするな、ハラハラする。


「そうだねぇ、ちょっと分からないかなぁ。まぁ副部長の言う通り、そんなに拘ることじゃないから、次行こうよぉ。」


ナイス。古城が俺に乗っかった。このまま流そう。


「そうそう。俺も古城も知らないことだし、別にいいだろ、知らなくても。」


古城のフォローにさらにフォローを重ねて、会話を切り替えようとした。

しかし、


むすっ

葦附は顔をしかめ、


「何それ?知らないんだったら調べようよ!そのための文化研究部なんだから!」


そう言ってスマホでスッスッと検索し出した。


しまった。やらかした。

軽く天を仰ぐ。フォローのはずがかえって激情を煽ってしまい、知的好奇心を呼び起こしてしまった。駄目だ、これは…プレミだ。すまん、古城…


「…?」

「…」

「…!」

「…」


直接葦附の顔は見れないが、表情がコロコロ変わってるのが分かる。


一分後。

葦附がスマホを置いた。


「『パパ活』『パパ活女子』の略だったんだね。知らなかったよ。」


おや?声のトーンが暗くない。顔つきもしっかりしてる。元からか。


「…前から知ってたのか?パパ活のこと。」

「名前だけはね。どんなのかは今調べて分かったけど、女の子がデートしてお金を貰うってことなんだね。でもこれもちょっと怪しいよね、闇バイトみたい!」


ちょっとどころではないが。というか、「デート」止まりで調べるの終わったんだな、良かった良かった。


「そうだな、それも同じくらい危ないな。でも今は一旦闇バイトに話を戻そうな。」

「そうだよぉ、まだまだ話すことはたくさんあるんだからぁ。」

「ごめんごめん、パパ活は後で自分で調べておくから!話戻そ!」


そうだな、一人で悶々としていてくれ。



「それで、誰がやるかってことだけどぉ。」

「やっぱり若い人かな?遊ぶお金が欲しいとか、悪いことだと思わなかったからとかで。」

「いや、金に困るのは若者だけじゃないだろ。中年でも老人でも、お金に困る人はいくらでもいるんだし。ギャンブルで借金作ったとか、よくありそうだしな。」

「令和六年上半期の特殊詐欺について、検挙人員を年代別に分けた資料が警視庁から出てる(※)よぉ。」

「ありゃ、296人のうち七十代以上はゼロか。それに四十代以降は件数が少ない。まぁスマホの扱いにも慣れてないし体力的にキツそうだから、募集に引っ掛からないのか。」

「それでもゼロじゃないから、副部長が言うような理由でお金に困るおじさん達がいるはいるんだねぇ。」

「やっぱり十代から三十代までが多いんだね。それに二十代だけで半分近くあるよ。」

「次に多いのが十代ってのが心配だねぇ。高校でスマホを持ったばかりの私達みたいな人間が、コロッと引っ掛かっちゃうのかもねぇ。」

「高給に釣られてな。どうしても欲しいものがあれば、我慢せずに親に言えってことだな。」

「何、荒屋敷君欲しいものあるの?お母さんにねだってるの?」


んなわけねぇだろ舐めてんのか?その「本当に疑問に思ってるよ?」顔やめろ。ぶっ飛ばしたくなる。


「…そういう状況だったらの例え話だ。俺は関係無い。」

「なぁんだ。だったら面白かったのに。」


何にも面白くねぇやい。



「続いて動機か。まぁ金に困ってる一択だが。借金があって危ない橋を渡るしかなくなった人間が。」

「そうだよねぇ。でも他にもあったり、するかもよぉ?」

「?何かあるのかそれ以外で。危ないと分かってても金欲しさにやるんだろ。」

「うぅ~ん、分からないままやっちゃうことも、あるんじゃないかな?」


はぁ?さっきのズブズブな投稿散々見ただろ?あれで分からないなんてことあるのか?


「文章の意味がよく分からない、そういう症状がある人とかってことか?」

「いや、そうじゃなくて…いやそれもあるんだろうけど…段々と誘導されたってことはないかなぁ?」

「何、誘導?」

「ほら、最初はまともな時給で普通の仕事させておいて、次はちょっと給料高くするからこれやって、次はもっと高くするからこれやって、そうやってどんどん犯罪に近いことさせていって、引き戻せなくなるところまで来ちゃうって感じ。」


あぁー、なるほどねぇ。さっき言ったな。末端の仕事過ぎて犯罪臭が感じられなくてやっちゃう流れだ。


「荷物の受け渡しから始まって、詐欺、強盗、殺人までエスカレートしていくやつだな。途中で気付いても個人情報すっかり握られてるから、脅されて抜けられないんだろうな。」

「まともな餌を撒いておいて、一度信頼を得てから、徐々に闇に染めていくと。絶対あるよねぇ。」

「後、こういう心理もあるんじゃないか?『脅されてやったからこっちも被害者だ。悪くない。』ってな。」

「あぁそっか!ん?いやでも、どうなんだろその理屈…?」

「まぁ、脅された事実はあるにしろ、応募した最初から捕まる最後まで、結局は自分の意思で実行したことになるからねぇ。情状酌量の余地はあっても、全く悪くないなんてことにはならないと思うよぉ。」

「そうだよね。警察も気付いたら保護するから、脅されててもやらないでって何度も注意喚起してるみたいだし。」

「警察を信じるか、得体のしれない闇の組織を信じるか。明らかだとは思うけど、でも実際その立場になると、焦って判断能力が損なわれるのかもねぇ。」

「そう考えると、一人で考え込まないって大事だな。周りに相談しやすい環境を用意しておくのも予防策の一つかもな。」

「確かにね。」

「そう思うよぉ。」



「やっちゃったらどうなるかだけど、まぁ捕まっちゃうよね。」

「それで有罪判決人生オワオワリってことで。」

「窃盗罪、強盗罪、詐欺罪、殺人罪…若いうちにやっちゃうと、その後何十年も凶悪なレッテルが貼られ続けることになってしまうねぇ。」

「ちょっと刑法を調べてみたけど、窃盗罪は十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金、強盗罪は五年以上の有期懲役、詐欺罪は十年以下の懲役、殺人罪は…死刑又は無期若しくは五年以上の懲役…」

「まぁ殺人はなかなか無いにせよ、一番ありそうな詐欺罪で十年か。脅迫されてたこと、初犯、反省の余地アリでも、三年くらいは刑務所にいなきゃいけなさそうだよな。」

「若いうちの貴重な時間をそこで費やすのは勿体ないよねぇ。もっと有意義な使い方なんていくらでもあるだろうに。」

「捕まる以外ならほぼ何でも有意義だよな。」

「そうだよ!ただちょっと散歩するだけでもよっぽどマシだよ!」


それはちょっとよく分からないかも。


「ここにも少年法が適用されて、十四歳だったら、減刑とか、それか刑事裁判にならないこともあるんだよね?」

「よく覚えてるな。そうだな、そういうことになるな。」

「でしょお!ふふん♪」


得意げに胸を張ってくる。

直視できないので古城の方に目を移す。

何かとは言わないが、平坦でのどかな野原を感じる。特に意味は決して無いが。


「そこを突いて、十四歳以下の子たちを狙って声を掛ける犯罪グループもいそうだよねぇ。本当に危ない世の中になったこと。スマホを持たせていいのかも心配になるよ、こりゃ。」

「まぁ何歳にしろリテラシーが必要なんだろ。四十歳より上でも闇バイトに手を出してるんだ。タダで甘い蜜なんて吸えないって教訓をいつも自覚しておかないとな。」

「そうそう。自分の才能か時間の相当分を消費しない限り、お金なんて稼ぎようが無いってことだよぉ。」

「まぁ、その通りなんだけど、それはそれで夢が無いというか、辛い世の中というか…」

「ファンタジーは現実にありえないって。」

「夢を見るのもいいけど、何事も一足飛びにはいかないってことを分かっていないと、痛い目見ちゃうのかもねぇ。」



「やっぱり闇バイトはクソだな。関わらないのが一番ってことが分かった。」

「でもインターネット上で、これからも形を変えて身近に潜んでくるだろうから、お金が絡む案件には常に気を付けていかないとだねぇ。」

「本当に迷惑だよ!どうして悪い人っていなくならないのかな?」


お?善悪論やるか?一日じゃ到底済まんぞ?


「どうしようもないだろ。せめて自分だけは悪いことをしないように、法律と照らし合わせながら自分を顧みていくしかない。」

「あと、アルバイトとかを探す時は、特に未成年の場合は、家族とか頼れる人と一緒に決めた方がいいねぇ。恥ずかしいことじゃないから、どんどん周りを頼ればいいと思うよぉ。」

「じゃあ今日の結論は、お金に困ったら周りを頼れってことかな?」

「端折り方が凄過ぎるだろうが。」

「まぁ、まぁ?でも?そういうことだよぉ、うん。」


古城が諦めたくさい。この野郎。なら俺も降りた。


「やっぱり確かにそういうことかも。」

「うんうん!じゃあ今後も、家族皆んなと仲良く付き合っていこうね!今日学校であったことなんか話したりして!」


出た、暴走モード。聞き入れたくないが、取り付く島もない。こうなった以上は、流れに身を任せつつ濁すのみ。


「できるだけ。」

「努力しますぅ。」


こうして今日の議論は、なんかフワフワした感じで進んだ後、急に方向転換して家族平和島に不時着した。



帰り道。

目の前には大学生かと思われる若者の集団が。横に伸びて道を塞ぎつつ、大声で喋りながらゆっくりと歩いている。正直邪魔だが、横の狭い隙間を無理やり通過する度胸は無い。さっさとどっかに行ってくれと思いつつ、後ろにつく。

やがて集団の一人が、


ポイッ

カラッ、コロコロ…


「あ。」


空いたペットボトルのゴミをポイ捨てした。ゴミはコロコロ転がって、側溝で止まった。

集団の誰もポイ捨てを咎めず、そのゴミに気づかない。そのまま歩き去って行く。


「…」


ゴミの横を通過する。

全く、こういう思慮の浅い人間が将来闇バイトに引っ掛かるんだ。悪いことをしている自覚をもって欲しいよ。


スタスタスタ

スタスタ

スタ


くるっ

スタスタスタスタスタスタ

ぐわしっ

引き返してゴミを拾ってやった。


「俺は偉いから!闇バイトに引っ掛かるような頭の悪い人間じゃないから!だからゴミも拾うし!この正義感があれば大丈夫!うん!」


ゴミを片手に大股で帰路につく。目の前を遮る集団はいなくなっていた。

途中でコンビニがあったはずだ、そこで捨てる、絶対。

夕暮れ、強い意思を感じる力強い足取りが響く。


今日は、闇バイトの不要さと、コンビニのゴミ箱は店の中にあるから捨てるだけの入店がちょっと気まずくなることを学んだ。



【※出典】

警察庁 令和5年における特殊詐欺の認知・検挙状況等について(確定値版) p10

https://www.npa.go.jp/bureau/criminal/souni/tokusyusagi/hurikomesagi_toukei2023.pdf


PR TIMES SNSから犯罪に巻き込まれる「闇バイト」の実態調査

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000104.000034282.html


警視庁特殊詐欺対策本部 令和6年上半期における 特殊詐欺の状況について p27

https://action.digipolice.jp/files/15cc1537a0df7b599107a81e202984a3.pdf


e-gov 刑法

https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045#Mp-Pa_2-Ch_36

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