【11/25 書籍発売】宿屋の看板娘、公爵令嬢と入れかわる
優木凛々
プロローグ
プロローグ 茶番劇とちゃぶ台返し
冬の太陽が静かに降り注ぐ、冬の午後。
リベリア王国にある、エーデル貴族高等学園の年末パーティにて、その事件は起こった。
「シャーロット・エイベル! お前がイリーナに対して行ってきた悪辣な仕打ちは全て聞いた! お前のような女は、王族である私の伴侶に相応しくない! 婚約を破棄する!」
色とりどりのバラが飾られた会場に、男性の声が響き渡る。
聞こえてきた場違いな台詞に、
思わず目を見開き、顔を見合わせる、ドレスアップした生徒たち。
声の方向に目をやると、会場の中央に4人の男女が立っていた。
口元に嗜虐的な笑みを浮かべる、見目の整った容姿の青年――この国の王子であるダニエル。
その腕に抱かれているのは、ピンク髪ふわふわ髪の子犬のような顔をした娘――エイベル公爵家の次女イリーナ。
二人に対峙しているのは、淡い水色の髪が美しい、ダニエルの婚約者、エイベル公爵家の長女シャーロット。
どこか体調が悪いのか、その後ろに立つ辺境伯家の子息カルロスに支えられながら、俯いて目をつぶっている。
そんなシャーロットをながめながら、薄笑いを浮かべた王子が、
彼女がいかに性悪でイリーナをいじめていたかを、大声で並べ立てていく。
王子の話を聞いて、周囲の生徒たちが戸惑ったように
「まさか」「でも確かに」
などと囁き合う。
――と、そのとき。
ずっと下を向いたシャーロットが、ぴくりと肩を動かした。
うっすらと目を開けると、ゆっくりと顔を上げ、水色の瞳を正面の二人に向ける。
ダニエル王子が「ふん」と鼻を鳴らした。
「気分が悪いフリはおしまいか。見え透いた嘘はやめろ」
「ダニエル様あ、そんなに言ったらお姉様が可哀そうですう」
目の前でイチャつく二人を、シャーロットが冷静に見据えた。
軽く息を吐くと、考えるように軽く目をつぶる。
そして、彼女は決心したように目を開けると、ぐっと背筋を伸ばして、微笑みながら口を開いた。
「……恐れながら、1つ申し上げたいことがございます」
「ふん、なんだ」
薄笑いを浮かべるダニエルと、いやらしく片方の口の端を持ち上げながら馬鹿にしたような顔をするイリーナ。
そんな二人に、シャーロットがにっこり笑った。
「それでは申し上げます。――出鱈目を言うのはお止めください。いくら王族とはいえ、公衆の面前で公爵家の娘であるわたくしを嘘で陥れるような真似は許されませんわ」
「……なっ!」
予想していなかった言葉に、呆気にとられるダニエルとイリーナ。
生徒たちも、大人しいシャーロットからは想像もつかないハッキリとした物言いに、ポカンとする。
シャーロットは、そんな彼らに悠然と微笑むと、窓の外の青い空を見上げながら、小さくつぶやいた。
「マリアさん、ありがとうございます。わたくし頑張りますわ」
その耳に、どこからか、
『シャーロット! がんばれ! 負けちゃだめよ!』
と叫ぶ声が聞こえた気がした。
――なぜこの状況で、公爵令嬢シャーロットが、マリアと呼んだ宿屋の娘に感謝しているのか。
この物語は、遡ること約8カ月前、2人が『黄泉の川』で出会うところから始まる。
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