第4話 嫌な奴が待ち伏せしてたんだけど…
「ねえ、あんたさ。ちょっと聞きたい事があるんだけど!」
翌日の昼休み中。
購買部にて、和樹が二人分のパンを購入した後の事だった。
「え? な、なに?」
いきなりの登場に、昨日の事がフラッシュバックする。
「あのさ、玲奈とは付き合ったの?」
「な、なんでそんなこと言わないといけないんだよ。そもそも、君との関係は昨日の時点で終わったはずじゃ……」
「そうなんだけど。ちょっと気になっただけ」
「で、でも、なんで玲奈と付き合っている事を知ってるの?」
「そ、それは、たまたま街中で見ただけ。それだけのことよ。なんかある?」
「街中で?」
和樹は、梨花から見られていたのだと今になって嫌な気分になる。
なぜ、面倒な奴に見られてしまったのかと頭を悩ませていた。
「それで付き合ったの?」
梨花から詰め寄られる。
「まあ、一応は」
「へえ、そう……というか、あんたみたいな奴に興味を持つ人がいるなんて凄いんじゃない?」
「どういう意味?」
「……そういう意味だけど」
彼女は顔を引きつらせながら和樹の事をチラチラと見やる。
「俺、ちょっと行く用事があるから」
和樹は立ち去ろうとした。
「待って」
梨花から強引に通せん坊をされてしまう。
「もう話は終わってるんじゃない? 昨日の時点で別れたわけだし」
「まだ終わってないから」
「え?」
和樹は不安そうに首を傾げていた。
一刻も早く逃げ出したいのに、逃れられない運命にあるらしい。
「あのさ、玲奈って奴さ……なんていうか、あまりよくない噂を聞くんだけどね」
「え? 俺はそんな事は聞かないけど」
「だからさ、あいつとは関わらない方がいいってこと!」
梨花は大声で和樹に訴えかけていたのだ。
今、周りの廊下には誰もおらず、大声を出して驚く人はいなかった。
「逆に、なんで君がそんな事を心配してるの? 俺の事は好きじゃないって」
「そ、それはそうなんだけどさ」
「けど?」
「まあ、いいから別れろってこと」
「な、なぜ?」
「なんでもッ! まったく」
彼女は腕組をして、不満そうに頬を膨らましていた。
「よくわからないけど。俺は稲葉さんと別れるつもりは今のところはないよ」
玲奈と別れてしまったら、彼女との約束を破る事に繋がる。
それだけは絶対にしてはいけないと思った。
「俺、本当に行くから」
和樹がハッキリと発言し、前へと進もうとした時、体が一瞬だけ前かがみになる。
何とか態勢を整え、転ばずには済んだものの、その場に佇む梨花は和樹の事をジーッと睨むように見ていた。
和樹は足元に違和を感じた為、彼女から足を引っかけられたのだと思った。
「な、何よ」
「俺を転ばせようとした?」
「別に」
彼女はそっぽを向いて、他人事のように言っている。
「でも、足に君の足が当たった気がするけど」
「そうかしらね? 気のせいじゃない? というか、あんたが全部悪いんだからね」
「……は? どういうこと?」
「そ、そんなこと自分で考えたら」
梨花からは意味不明な事を言われ、困惑する事しか出来なかった。
遠くから足音が聞こえる。
「岸本さんが来るの遅いと思ってたら、こんなところにいたんだね」
和樹と梨花が廊下で佇んでいると、
「私、さっきの光景を見てたんだけど。中原さんは、岸本さんの足をかけて転ばそうとしてたわ。私、ちゃんと見てたんだから」
玲奈が、唯一の理解者らしい。
この現状を前に、和樹の事を心配し、真摯に向き合ってくれていたのだ。
「は? こっそり見てたわけ?」
「こっそりって人聞きが悪いわね。さっきの光景しか見てないわ。たまたま見たって感じ」
梨花に対し、玲奈も食い下がる事はなく、目力が拮抗している状況であった。
「でも、見た事には変わらないわ。もういいから。本当にウザいわね」
梨花ははき捨てるように言った。
「それより、岸本さんには謝ったら?」
「……別に」
「なに、その態度は?」
「……そもそも、そいつが悪いのよ、陰キャのくせに……」
梨花の発言からは躊躇う気持ちも感じられたが、彼女は和樹の方をチラッと見るだけで、それ以上多くを語る事もなく背を向けて立ち去って行く。
「なんだったの? あの人」
玲奈は、梨花の後ろが見えなくなったところで、ため息交じりの声を漏らす。
「昨日、俺のことを振ったんだ。でも、なぜか執着してくるというか、意味が分からないんだけどさ」
「そういうことがあったの。岸本さんは大丈夫だった?」
「うん、大丈夫。気にしないで」
和樹は彼女に心配をかけないように言う。
「じゃあ、予定通り一緒に昼食を食べよ。気分を変えるためにね」
「あ、でも、さっき転びそうになった勢いでパンが少し潰れてしまってるんだけど」
和樹は手にしている二つのパンを彼女に見せた。
「いいよ、そんな事は気にしないで。少し潰れたくらいなら気にしないから」
玲奈は最初から最後まで優しかったのだ。
二人もその場所から立ち去って行くのだった。
「でも、どうして、あの子と付き合うことになったの?」
昼休みの昼食時間帯。二人は校舎の裏庭のベンチに隣同士で座っていた。
共にパンの袋を開け、食べながらやり取りをしていたのだ。
「その件なんだけど。二週間ほど前に手紙のようなモノが机の中に入っていて。それで梨花と会うことになったんだよ」
「あっちの方から話しかけてきたってわけね」
「そう。でも、最初は何かの間違いかと思ったんだけど、意外と普通に接してくれて、放課後には一緒に街中で遊んだりとかはあったんだけど。けど、昨日、いきなり学校の空き教室で別れるからって言われて。一方的に」
「酷いね」
玲奈は同情してくれているようで表情を歪ませていた。
「しかも、罰ゲームだったんだ」
「罰ゲームって、遊びだったってこと?」
「そういうことみたい」
「そんな人とは別れて正解なんじゃない?」
彼女は和樹の悩みを自分の事のように悩んでくれていたのだ。
「じゃあ、あの子を見返してやればいいじゃない」
「見返す? どういう風に?」
「んー、なんていうか。あの子にとって嫌な事とか?」
「嫌な事か……」
でも、すぐには思いつかなかった。
「なんだろうなぁ……」
考えながら和樹がパンを食べていると――
「じゃあ、私と岸本さんがイチャイチャしているところを見せつけるとか?」
「そ、そういう事をやるの?」
「それでもいいんじゃない? または岸本さんが得意な事で差を見せつけるとか?」
玲奈が色々な提案をしてくれる。
でも、今思い返せば、梨花は昨日、玲奈と一緒に歩いているところを見たと言っていたのだ。
その事について、八つ当たりをしているように思えた。
もしかすると、イチャイチャしているところを見せつけるのが一番効果的なのかもしれない。
和樹も玲奈の提案を受け入れるように頷き、計画を立て始めるのだった。
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