第27話
ヤマトの判断は、いつだって適切だった。
三番街フォーク村に組長を連れ帰った後、ヤマトは組長のペルソナを剥がし、顔を特定させた。
「これでお前の顔は覚えた。現実世界で、どこにいても。お前とお前の家族に俺は手が出せる。二度とこんな真似をするんじゃないぞ」
「そ、それだけ……?」
「なわけないだろ。これからお前は、シリムが尽きない限り永遠に作動し続けるミキサーの中にブチ込まれる。全身を少しずつ、少しずつ刻まれながら、死にそうになったら回復される夜を過ごす。俺たちが眠った後も、ずっと、ずっとな。1年か10年が過ぎて、お前がどれだけ後悔し、二度とこんなヘマはしないと誓ってもなおも体は刻まれ続け、その果てにようやく安眠が待っている」
「ふ、ふざけるな! お前らはそうやって俺たち弱者を踏みつけにして、それで……!」
「心の弱い者につけ入り、悪逆の限りを尽くしたお前の罪は、これでも消えない。だからせめて、お前は俺たちの気が済むまで痛め続ける。知ってるか、組長。”気が済むまで”っていうのは、個が想像し得る最大限の暴力を体現する行為のことだ。お前がしてきたことと同じだ。気が済むまで、存分に味わえ」
「い、嫌だ。やめろ、やめてくれぇ……!」
「逃がしもしない。痛みを持って罪を知り、目が覚めたら生きていることに感謝し、お前が声をかけた犯罪者予備軍たちに真っ当に生きると伝えろ。そうすれば、俺たちも”それ以上は”手を出さない。おい、連れていけ」
「待てよ、おい待てよ! 悪にだって、公平に戦う権利が……」
「ない。心の内に悪を携え、悪を望んでいる人間は、ただ生きるだけで他者を脅かす。俺たちはそれを受け入れないし、一切の手心を加えない。お前たちが俺たちに容赦しなかったように、俺たちも一切の慈悲を与えない。さっさと連れていけ」
ヤマトがそう指示を飛ばすと、衛兵たちが頷き、そういう拷問器具のある場所へ連れて行った。
体を切り刻み続ける部屋、か。
10年も稼働するなんて嘘っぱちだろうな。1年も動かんだろ。
まぁ、僕はそんな悪趣味な部屋、見に行ったことはないからわからないけど。
ふらりと、僕の前に片ヒゲの男がやってきた。
「クロック、と言ったな」
「ヴィルヘルムか。世話んなったな」
「いや、俺たちのほうからも礼を言わせてくれ。人知れず増長しようとしていた悪を止めたんだ。これは偉業だよ。クロック。いつの日か、今日の戦いに栄えある名前がつくことだろう。今度はぜひ、俺たちのバブルに遊びに来てくれ」
「あんたんとこのバブルって、闘技場だったっけ」
「ああ。お前のような強者の参上を、いつでも待っている」
「気が向いたら行くよ」
そう挨拶を交わし、ヴィルヘルムたちは去っていった。
悪いやつらではなかった。
ほんと、世界がああいう人たちだけで成り立っていたらよかったのに。
次は、ヤマトが歩み寄ってきた。
「お疲れ、クロック」
「クッタクタだよ。あ、そういや、どうでもよかったけど、エラーガールは?」
「逃げられたらしい」
「そうか。次は敵の敵の敵の敵になってるかな」
「もっとちゃんとした首輪をつけるべきだったよ。という積もる話もある。一杯やってかないか」
「酒は飲まないからな」
そう返す僕へ、ヤマトは心底安心したように、笑った。
「相変わらず、お前はホント、ウチのヒーローだよ」
◇◇◇
「ぶにゃ、ぶなーお」
「うぐ……」
顔をぶにぶにとされている感触で目を覚ますと、スミレが僕の頬でふみふみしていたらしい。
もー、この灰色の毛玉は。
ご主人様をなんだと思っているんだ。
「……帰って来たよ、スミレ」
猫という生き物は、勘が鋭い。
僕がどこか遠くに行くとでも思ったのだろうか。
僕はここにいるよ。
今までも、これからも。
変わることなく。
◇◇◇
「ねー、聞いてよチクタクー! 向こうの世界で初めて敗けちゃったのー! ねー、もう、どうしたらいいかなー」
クシナサラは、現実世界であんなやり取りがあった後だというのに、または夢世界であんな騒動があった翌日だというのに、そんなこんなで僕を呼び出して、いつものように、特別教室の渡り廊下で僕に愚痴を言うのだ。
夢の世界とは別人みたい。
あんなに張りつめていた狐面の女が、こんなごく普通な女子高生だなんて、三番街フォーク村のみんなが知ったらどう思うだろう。
そして僕は、絶対に彼女と分かり合えないと知りながらも、相も変わらず、無碍にはできず、こんな先輩風を吹かせるのだ。
「とりま、早口言葉の練習でもしてみる?」
なんて。
なまむぎなまごめなまフレア ナ月 @natsuki_0828
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