それから彼女は語る
03
「貴女様に会いに来たのは、この記憶を返却することを施設で決定したからです。つきましては返却に対する条件と手続きをお願いしたく、」
...?彼女は何を言っているんだろう。急に現れて、私の記憶を長期に亘って奪っている?それを返却?条件?手続き?意味がわからない。質問さえ出来ずに固まる私と、説明を続ける女性。尚も話は続く。
「条件は幾つかあります。一つには、15年間貴女様が得るはずの感情や経験、そういったものを一気に返却しては貴女様の脳が処理し切れずにパンクしてしまう可能性があります。その為時間をかけて返していくことになる次第です。一つに、記憶を取り返して行く内に貴女様は貴女様の知らない人々や景色と出会うことがあると思われます。けれどそれらは過去のもの。決して今の貴女様が取り戻そうとしてはいけません。過去と現在の区別がつかないと判断した段階で、記憶を戻す行為は打ち切らせて頂きます。そして最も重要なのが、」
とそこで一息つき私を見て先を言う。
「貴女様にはその間の生活を我が研究施設にて行なって貰うということ、質疑は受け付けますが異論は一切受け付けませんので悪しからず」
そう告げ説明を終えた彼女に、私は何を言えばいいかわからず、ただ
『ひとつだけいいですか。納得や理解には時間がかかりますがひとつだけ伺いたいことがあります。』
とそう尋ねた。
「何なりと」
彼女は真剣な顔で言う。
『何故、私の記憶を。この世には人間なんて溢れているのに、何故私が、その、実験体みたいなものに選ばれたのでしょうか?』
そう、それが一番気になる。何故私なのか。
「溢れている、それに実験体、言い得て妙ですね。答えは簡単です。それは人に溢れているこの世界で貴女様は誰よりも孤独だったからです。孤独という言葉の意味を、真の意味で理解は出来ていなくとも、不幸で哀れで、興味深かったからです。」
そう言われて、納得してしまった。不幸だとか哀れだとか、そういう言葉たちに怒るべきだったのかもしれない。それでも納得してしまった。聞きたいことはまだあったけれど、それでも確かに私は孤独だった。怒るよりもっと、何か真に迫るものがあったのではないか。それが何かは分からないけれど、少なくとも私である意味が理解出来るまでは、この人たちの研究施設に行ってみようかと思った。それがなんだかいい気がしたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます