第7話 サバンナとボス

 結局は三十を超える猫が集まった。

 ナッツは完全な家猫だったので、猫たちに囲まれたことがないので、内心ドキドキだった。

 庭に訪れる猫はメウちゃん以外は二、三匹で、歳を重ねるごとに顔ぶれが違ったし、話しかけたこともないのだ。


「いろんにゃ毛色にゃねぇ」

 ナッツはニャンプチとニャルカンを大盤振る舞いした。


「メウメーゥメウ!!(こんなの覚えたら野ネズミや鳥なんか食べれないねぇ)」

「にゃ!」

 ナッツは捕まえたモノは食べたことがない。

 ママは家に出た黒いやつ持って行ったら飛んで逃げたのを思い出す。

 捕まえて食べるのはダメって言われたのに、お外の猫はそれを食べてたのかとナッツは思った。


「ご飯に困ったにゃら、丘の上のお家に来ると良いにゃ!!ミャーのお家にがご飯があるにゃよ」

 自分は神様からお腹いっぱい食べれるようにして貰ったから、困った仲間も助けられると思ったのだ。


「メウ!!メウメーゥ!(お猫好しだね!そんなこと言ったらただの穀潰しが集まるよ!)」

「にゃ!」

 なんと、お誘いしてはダメだったのかと驚いた。


「ウギャ!ウギャギャ!(随分な甘ったれ小僧だな)」

 声が枯れた片目に傷のある猫が会話に混じって来た。

「ウギャ!ウギャォウギャ!(みんな今日の飯にありつけるかどうかの暮らしさ。家に来いって言っちまえば乗っ取られるぜ)」


 (ミャーはこれ知ってる。ハードボイルドキャットだにゃ)

 ママが好きなアニメに出てたワイルドイケメン猫に似てるとナッツは思った。


「メウ!メウメェーウ!(ボス!そんな生意気言うんじゃないよ!)」

「ウギャ!(ウルセェぞ)」


 素敵な猫だまりを眺めていたシェルスは、サバンナとボスは仲が悪いようだと思った。

 この辺りの力関係はサバンナが上位のようだ。


「ミャーのうちは悪もにょは入れにゃいにゃ!だから大丈夫にゃよ」

 ナッツはご飯を必死に食べている小さな猫を撫でている。


「野良猫が多いにゃ?」

「メウメーゥ!!メウメェウ!(いーや、一応飼い主はいるんだよ。アタシらは優雅な外飼いさ)」

 車は走ってないから危険はないのかもとナッツは思った。


「ウギャウギャ(近くで犬の集まりもあるぞ)」

「種族の違いは超えられない壁があるにゃ」

 犬はママのうちの前でギャンギャン吠えたりしていたのでナッツは好きじゃない。


「ウギャウギャギャ(まぁ俺たちのシマの猫は食いっぱぐれにはならん)」

 お腹空かせて寂しい猫がいないなら良かったとナッツは安心した。


「ニャァァーニャァァ(でもこの美味しいご飯また食べたい)」

 若い猫たちがニャルカンを気に入ったようだ。

「いつでも遊びにこれば良いにゃよ。ミャーが留守でもアキが出してくれるにゃ」

「「「にゃにゃーーーん♫(やったー)」」」


「メゥメゥメェウ!!(あんたも何かあったらアタシらを頼りな)」

「ありがとにゃ」

 ナッツはお友達がいっぱい出来たと思って幸せな気持ちになった。


 見守っていたシェルスは猫まみれなほっこりタイムを堪能した。


「じゃぁまたにゃー」

「「「「にゃーん」」」」

「メゥ」

「ウギャ」


 みんなと別れてシェルスと共に丘の上の自宅に戻った。


「ただいまにゃー」

「お帰りなさいませ」


 アキが出迎えてくれて、ナッツはママがお家に帰ってくるのを待っていた日々を思い出し、アキにギュッと抱きついた。


 ママが抱っこしてくれて首を吸うまでしてたのは真似しないけれど、ただいまの儀式は大事なのだ。

 

 シェルスは自分もすべきかと一瞬悩んだようだ。

「はっ!私は猫ではなかったのでした」

「正気に戻られて何よりです」

 アキがシラーっとシェルスを見ていた。


「ナッツさま、お風呂に入って入りましょうか?」

「うにゃ!?ミャーは毛繕いをするから良いにゃよ」

 お風呂はママがナッツにしてくれることの中で一番嫌いなことだった。

 「キレイキレイ大事よ」ってママは言っていたけど、ナッツは家猫なので滅多にお風呂に入ることはなかった。

 そのたまにの事はナッツにとっては大問題で、大好きなママだけど三日は遠巻きに過ごしたものだ。


「お外で土をいじったり、たくさん歩いたらお風呂は絶対です」

 アキは優しい笑顔なのに圧をかけてきた。


「ナッツ、ここのお風呂は気持ちがいいですよ。一緒に入りましょうか」

 シェルスは、水に濡れた猫も可愛いだろうと想像して一緒に入ることを提案した。


「・・・ジャーッと水をかけるだけにゃ」

 シェルスとアキにお風呂場に連行され、アキも入ってきた。


「おんにゃのこは一緒ダメにゃよ!」

「私は無性ですので」

 メイドさんの格好で女の子のように可愛いのに無性と言うことにナッツは驚いた。


「アキも去勢したにゃか?」

「「・・・!?」」

 ナッツは病気にならないためと発情期のマーキング対策で去勢をしたことをママに教えられていた。


「去勢はしてませんよ。性別がないだけです」

「そうにゃのか」


 ナッツは今の体では去勢されていないのだけど、その事は理解していない。

 

 二人の会話の横でシェルスの股間がヒュンとなっていた。

「生き物の世界は世知辛いものです・・・」


 結局アキはメイド服を着たまま、ナッツを濡らしてアワアワにして丸洗いした。


「にゃぁー・・・」


 アキには勝てそうにないナッツだった。


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