なぁ、無能だと追放された俺が実はクリスタルを自由自在に扱える最強の力の持ち主だったのだが?
ニゲル
一章 無能からの成り上がり
第1話 魔法を使えない無能は追放だ!!
「リュージ、お前は今日限りでパーティークビな」
ある朝パーティーのリーダーであるバニスに呼び出され、突然クビ宣告を受け頭の中が真っ白になってしまう。
二年前に入った現在Bランク冒険者パーティーである《アントス》。俺はここで雑用係をやっていた。たった今クビになったのでその身分すらもうないのだが。
「ク、クビってどういうことだよ? 何で俺を……」
「お前が魔法を全く使えない無能だからだろうが!!」
バニスは握り拳を作り目の前に置いてあった机を強く叩く。振動でコップが揺れ中身の水が飛び出そうになる。
「二年だぞ二年!! デンリはパーティーに入って半年で多彩な魔法を覚えたっていうのによ!!」
バニスの手が指し示す方には必死にニヤけるのを堪える紫髪の少女の姿がある。半年前からパーティーの一員となったデンリ。俺より若く魔法の才に長けている魔法使いだ。
「ぷぷっ……そうだよ……あんたもう19でしょ? アタシより四つも上なのにまだ一つも魔法が使えないとか……だっさぁーい」
デンリはついに笑いを堪えられなくなり、笑い声混じりにこちらを罵倒してくる。
「そんな……シ、シアはどう思ってるんだ?」
俺はバニスのすぐ隣にいる雪のように白い髪の女性。聖女シアに助けを求める。
「そうですね……あまりこういうことは言いたくありませんが、正直このパーティーにとって、いえ。バニスさんにとってあなたは足手纏いです」
シアは妖艶にその細い手をバニスの肩の上に置く。そして俺の助けを求める手を振り払い拒絶する。
「おい……お前はどう思うんだトッポ?」
バニスは勝ち誇った顔で普段無口のタンクであるトッポに意見を求める。
「Bランクになったここに弱い奴は必要ない」
普段あまり話さない彼の珍しく述べた文。それは俺を責め追放を促すものだった。
俺以外のパーティー四人全員の意見が一致する。クビにして追い出すという意見に。
「そういうわけだ。お前はもう必要ないんだよ」
「くっ……分かったよ。今までありがとう」
俺は唇を噛み締めながらも部屋から出ようとする。だが背中に強い衝撃が走り俺は床に伏してしまう。
「おいおいよくないなぁリュージ。お前の装備品はパーティーで買ったものだろ?」
バニスが俺の背中に飛び蹴りを放ったようで、そこに追い打ちをかけるように背中に足を乗っけて力を込める。グリグリと足をめり込ませ鈍い痛みが襲う。
「あがっ……!!」
「泥棒はいけないよなぁ? 置いてけよ。ポーションの費用にでもするから」
「あははっ! 確かにリュージよりポーションの方が役に立つね!」
バニスは半ば強引に俺から武具を奪い取り部屋の外に俺を放り捨てる。床に体を打ちつけるが心配してくれる者はもう誰もいない。
「じゃあなリュージ。せいぜいオレの見えないところで野垂れ死ねよ」
バニスは倒れたままの俺を見下しながら扉を閉める。俺と彼らの関係を断ち切ってしまうように。
何でだよバニス……あんなに頑張ったのに……俺達仲間じゃなかったのかよ……!!
扉の向こうから聞こえるのは俺を嘲笑う声。俺は本当にパーティーを追放されてしまったのだと実感し、かといっていつまでもここに居るわけにもいかないのでここをあとにするのだった。
重苦しい気持ちを背負って。
☆☆☆
「ふぅ〜清々しい気分だぜ。これからあんなグズの姿を見ずに済むなんてな!」
リュージを部屋の外に投げ捨てた後、オレは風呂上がりのようなサッパリとした気分で意気揚々とする。
「あはは! それにしても見たリュージのあの顔! いやぁ〜前々からしつこいまでに気を遣ってくるから鬱陶しかったんだよね〜」
デンリもオレと同じで清々しているようで遠慮なく笑い毒を吐く。
「バニス様。そういえば薬草の在庫があまりありませんが……買っておいた方がいいでしょうか?」
オレも釣られて笑いそうになるがシアの業務報告のおかげで喉を痛めずに済む。
「そういえば昨日リュージに補充するように頼んでおいたな。ったく。採集くらい一晩で終わらせとけよ。
まぁ今度の依頼は山に居る魔物討伐だからその時についでに採ればいいだろ。なんたってあのノロマのグズでもできる仕事なんだからオレ達なら依頼の片手間にできるだろ」
「えぇそうですね。あなたならきっと……わたくしもどこまでもついていきますよ」
シアはこちらに身を寄せ体を押し当てる。
全く……こいつもこんな清楚そうに見えて淫乱な奴だな。
「分かった。今夜でいいよな?」
「えぇ……ふふっ」
オレの彼女は口角を上げ足に手を沿わす。
どうだリュージ。強さも仲間も恋人も……何もないお前に比べオレは正に真逆。
まぁ今度見かけたら見下す代わりに少しくらいは恵んでやってもいいかもな。
オレはこれからも成り上がってやがてはAランク冒険者になってやる。
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