第五回 車窓から見る景色。(梨緒の視点)


 ――車両内で見る人間模様。まず座席は空いてる。一番前の車両、一号車にいる。



 座席は間隔が空いてて、梨緒りおの身長くらいなら寝転がっても大丈夫な間隔だけど、梨緒はもう小学生。その辺の常識は弁えてる。なのでスマホと睨めっこ。


 どお? ちょっぴり大人でしょ。ええっと、そこの親子連れの子供たちよ。


 すると、その子供たちが指さすの。三つか四つくらいの男の子が、


「ねえねえ、あのお姉ちゃんなんか変だよ」と言いながら。何が変なの? と思ってるとね、その男の子の視界を遮るように、千恵ちえが梨緒の前に立って言う。


「梨緒、姿勢が変だよ。そんな前に屈んでしんどくない? ママが言ってたよ。姿勢が悪いと早く目が悪くなるって。ママやパパみたいに眼鏡を掛けなきゃならなくなるよ」


「でもさ、千恵、あのお兄ちゃんだって梨緒と同じ姿勢だよ。それにリュックだって前に抱えてるし……だって、ランドセルって抱えないよね? 梨緒たちは背負って登校してるし。マスクだってお鼻を出してるし、ちゃんと覆わないと効果ないし」


 「クスッ」と、千恵から笑い声が漏れた。


「ツッコミどころ満載だね。でも姿勢は気を付けようね。千恵は梨緒を心配して言ってるし」と、今まで聞いたことのない台詞が、千恵の口から発されてるの。


 何で?


 ジーンと染みてきた。


「もうすぐだよ。ほら来て」と、千恵は梨緒の手を引っ張った。


「あ、ちょっと何?」


「見て、ママのお部屋にあったのと同じでしょ。レールに石が敷いてあって、その上を電車が走ってるの。でも、ママが走らせてる電車の方がカッコいいなあ」


 と、運転席側から背伸びして見る景色。千恵の目は……お星様が幾つもある夜のお空のようにキラキラしてて、語る電車のこと。やっぱりママの方に似かな。


 因みにママのお部屋に飾られてるのは、鉄道模型というそうだ。



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