もう一枚

ぼちゃかちゃ

夏の日に

 蝉の声がやかましくなる中。

 雪が降っている。

 喜びなどというものはないが、夏とは違い、クーラーで冷えた足を温め直すなどという愚行を犯さずに済むという冬を実感する。

 だがしかし、雪は嫌いだ。目の前の白い氷の粒はアニメや漫画、小説などで見るような雪ではない。マンションの、ベランダの外から見える雪は風情を無視した風に乗って吹き付ける。一面の銀世界になったとしても、10㎝も掘れば土を纏い、見るに堪えない姿になっている。溶けかけの雪はたちが悪く道路に居座り続けるくせにスニーカーで歩くと浸水する。凍えた足をわざわざ温めなければならないのだ。

 そういう意味では夏も冬も似たようなものか。

 一緒に本を読む仲間も、学校で知り合った友達も、こぞって屈託のない笑顔を貼り付けるいじめっ子のように私を雪合戦に誘う。そして引かれるままに近くの河原へ行き結局一度も雪を握らずに立ちながら雪への不満を考えているだけなのだ。

 「やらないの?」と攫ってきたやつが話しかけてくる。一体どの口がそんなことを言うのだろうか。私はここにいようなどとは一度たりとも思わなかったのだぞと言ってやりたいのをぐっとこらえて「手袋忘れてきちゃってさ」と誤魔化す。そして結局「帰っていい?」と気まずい雰囲気にすると分かっていても聞くのだ。そして「ごめんね」と謝られて別れに2,3言声をかけてから帰宅する。そんなことをその人と出会ってから初めての雪が降るたびにしているものだから、誰も雪合戦をしなくなった。

 さて、今現在雪が降っているということに直面している。そんな中、懸命な読者はもう私がどうするかわかるだろう。

 そうだ、

「家に引きこもるのだ」

 外に出るのだ。

「は?」

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もう一枚 ぼちゃかちゃ @55312009G

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