第58話
結局、文果は、あの文学青年の家に置いてきた。
爺の家を整理した経験を生かして、
腕まくりして寝られる場所を作りそうだ。
そして。
もうひとつ、
気になっていることが、ある。
香月璃子。
あの青年の交際相手。
俺の見立てが、正しいなら。
あるいは。
……
いや、
いまは、いい。
先の話になるだろうから。
「まどかちゃん。」
「うんっ。」
ここまで、だ。
これ以上は、危険すぎる。
「うちに、かえろ?」
「いやっ。」
げ。
「だって、
みちあきくん、
あそこに、ひとりでもぐるんでしょ?」
う、わ。
がっちり、バレてる。
だから、ここには、
ひとりで来たかったんだけどなぁ。
「わたし、
おかあさまに、
ちゃんと、言ったもん。」
え゛
う、うわぁ。
携帯電話を右手に掲げて、ふんすふんすしてる。
「さっき、
みちあきくんが、
あのひととはなしてるときに。」
……
どうりで、なんにも言ってこなかったわけだ。
「だから、だいじょうぶっ!」
いや、
どう考えても大丈夫じゃないわ。
「まど
「だって、
かりんちゃん、
あのなかに、いるんだよねっ。」
う、わ。
先回りして、答えを言っちゃってる。
まぁ、今日一日でヒントは出てたし。
なにより、まどかちゃんは、賢い。
……
さっき、愛香と話した限りでは、
近隣住民は昨日も今日も倉科花梨を見ていない。
一昨日の夜、庭で小さな音を聞いた奴がいるくらいだと。
そして。
(『速水風太も、
……
あの書籍に入っていたメモは、
誘ってるとしか言いようがない。
……。
美紀さんは、警察さんには、
絶対に連絡したくないはずだ。
体面というよりも、DV気質の夫にバレたら
何されるか分からないんだろうな。
んでもって、
千景さんも、警察に信頼は置いてない。
まどかちゃんの4歳の時の件が直接のきっかけなんだろうけど、
それ以外にも、なにか、あるんだろうな。
だと、すると。
……。
うーん、火力が弱いわ。
うなぎが好きなだけの小太り〇バオ君じゃなくて、
200センチを超えるちょっと顎の長い人とか、
知り合いに作っておくべきだったよなぁ。
「みちあきくんがとめるなら、
わたし、ひとりでもいくもんっ。」
ぶっ!?!?
うわ、
なんか、ちょっと、泣きそうな顔になってる。
切なさが天元突破しすぎてて、
こんな顔、人類ならば裏切れっこない。
……
お、終わってるな、これ。
あぁ。
そ、っか。
それは、ほんと、そうなんだよな。
「まどかちゃん、
かりんちゃんのこと、すき?」
「うんっ!」
……
友達を、助けたい。
ただ、それだけなんだよな。
「ほんとに、
れんらく、したんだね?」
まどかちゃんが、
ふんすと笑いながら、
目の前に通話履歴を見せてくる。
……
つい、15分前だ。
偽装とかする意味もない。
……
なら、
仕方ない、か。
後方処理は、千景さんに任せるとして。
「わかったよ。
ぜったいに、ぼくのそばをはなれないで。」
「うんっ!!」
う、わ。
まばゆいばかりのきらっきらな眼になった。
絵に描いたような満面の笑みが鮮やかに花開いてる。
ほんと、心の奥底を持ってがれる。
しょうが、ない。
この手は、使いたくなかったけど。
「いっぽんだけ、
でんわをいれてからね?」
これ、命綱になるかなぁ。
琢磨さん次第かな。
*
……。
やっぱり、ここか。
小学校の用務員室は、
夏休み中、一応閉まっている。
それにひきかえ、
こっちは、セキュリティゼロだもんな。
……。
黒い服の男たち、か。
ほんと、どこぞの組織みたいな。
さて。
大きなライトも持ったし、大き目の懐中電灯も持った。
万が一の時に備えてペットボトルとあんパンとドロップも持ってるし、
いざという時の備えも持っている。
ぬかりは、ない。
……ほんとか?
なにか、壮絶に忘れてるような
がったんっ
!?
「みちあきくん、ほらっ!」
あ、あぁ……
まどかちゃん、もうFeの扉を開いてる。
手際がよくなってぇ。
いいや、もう。
いったん、行くしかないわ。
*
……
この通路、明らかに人が通った気配がある。
3か月前から、今日まででも、複数。
人工物、なんだよな。
防空壕、こんな天井高く作るわけないし、
自然構築物が地下施設で防水を維持できるわけがない。
(防空壕の跡地なんかじゃない。
あそこは、俺の、親父が)
……。
「くふふっ!」
まどかちゃん、めっちゃ喜んでる。
って、なんでだ。
「だって、
みちあきくんと
ふたりっきりでぼうけんだよっ!」
あぁ、やっぱり、
冒険の書Ⅲの類だと思って
っ!
「!?」
い、いま、なんか、
激しい物音が
「はぁっ!?」
……
なぁんだ。
「お、お前ら、
なんで、ここに入ってるんだっ!」
嘘養護教諭かよ。
っていうか、
「せんせこそ、なんで?
そうさ、おおづめだから?」
「そうだっ!
やっと、捜査許可が下りたんだぞっ!」
そうなのか。
そもそも論なんだけど、
「どうして、ここのそうさに、
きょかなんているの?」
なるほど、おくすりの原料を作ってるかもしらんが、
基本、打ち捨てられた場所の筈だが。
「……
あぁもう、めんどくせぇな。
いいか、この施設は、
もともと旧陸軍のもので、
現在も稼働し
っ!?」
な、なんだっ!
「じゅ、銃声ぇっ!?」
は?
麻薬取締捜査官、
拳銃持って訓練もされてるはずなのに、
なに慌ててるんだ?
「き、聞いてないぞっ!
ただの秘密栽培地じゃないのかっ!!」
大詰めだと豪語してた筈なのに、
この緩さたるや。
「お、お前ら、
さっさと逃げろっ!」
「で、でも、
かりんちゃんがっ」
「いいから逃げろっ!
殺されるぞっ!!」
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