第28話
「目立ちすぎだぞ、お前。」
まぁ、なぁ。
偽養護教諭、出てくるわなぁ。
琢磨さんのお使いで、
ちょっと部屋を見てくるだけのはずが、
こんな大事になったとは。
「まぁ、おかげで
重要参考人を確保できたからな。
住居不法侵入は帳消しになるだろ。」
う、わ。
セコいなぁ。
そのほうがいいけど。
新聞の一面トップを飾るなんてとんでもない。
「用務員室は前から怪しいとは思ってたが、
こんな隠し通路になってたとはな。」
っていうか、
「なんでこんなものがあるの?」
その距離、およそ200メートル。
工事費、億で済むのかな。
「知るか。
……ただの民間人が作ったにしちゃ長すぎるな。
こんな田舎で地下鉄の跡地もあるわけねぇし。」
あぁ、コイツそういえばこっちの人間じゃなかったな。
誰に聞けばいいんだ?
にしても。
「さいきんまで、つかわれたよね。」
でなきゃ、
埃だらけだったろうし、
そもそも、歩けはしなかったはず。
「……
はぁ。
面倒ごとを増やしやがって。」
「うえにほうこくしづらい?」
「……
そうだ、ったくもう。
あぁ。
滝川
全治二か月くらいだと。」
……
そっか。
「がっこうのそとでさされたの?」
学校内なら、
いまごろ黄色いテープで封鎖されているはずだから。
「あぁ、街中でな。
白昼堂々の大惨事だったから、
警察も調べないわけにもいかなかったようだ。」
なるほど、な。
「それでけんけいのひとまででてきたんだね。」
「……お前、なぁ。」
裏付け完了っと。
だからなんだって話だけど。
……
通ってた塾講師がこんなものを秘めてるなんて、
まどかちゃんはどんだけ厳重に死神に囚われてるんだか。
やっぱり、護らないと。
あと10か月間。
……ほんと、大丈夫かな。
*
用務員刺殺未遂事件。
教職員内に、文字通り、激震が走った。
ただ。
「えー。
用務員の滝川さんですが、
体調が悪くなったので
しばらくの間、お休みとなります。」
これを、ただの体調不良で押し通せる
驚くべき情報管理能力。
田舎の小学生、
びっくりするくらいなんも知らされねぇんだなぁ。
まぁ、ネットも原始的なやつしかないしな。
用務員としての滝川父は、
不愛想っぽくも見えたから、
あんまり印象に残ってないのかもしれないけど。
……
いや。
人知れず誠実に仕事してたんだけどな。
なんていうか、いろいろ報われねぇ奴だなぁ。
*
「だって、かわいそうでしょっ。」
この一言であの爺が折れるっていうのは、
女孫っていうのは無敵だな。
まぁ、コイツ、見た目だけは可憐だからなぁ。
オデコあげたし、なんなら服のセンスも明るくなってる。
え?
ってことは、
「おじいちゃんといっしょに住んでるんだ。」
「そうよ。
そのほうがいいでしょ?
おじいさまにもはりあいがでるわ。」
うっわぁ。
滝川友行の環境、ランクアップしてるじゃねぇか。
でも、それって。
「大丈夫なの?
多動性障害があったんじゃないの?」
なんで皐月がこんなトコまで知ってんだろな。
文果が喋ったとも思えないし。
え。
「いまはもう、だいじょうぶよ。
しょうかいしてくれたから。」
あー。
結局、薬物療法か。
まぁ、それで緩解するなら、それが無難かも。
……どっちも正しかったわけか。
構造要因が解決しないうちに薬物に頼ったら、
あの偽保険医の言う通りになったろうし。
難しいわな、いろいろ。
って。
「なぁに、満明君。」
……コイツ、ごく自然に絡んできやがったな。
いままでそんな素振り見せなかったのに。
「ふふ。
言ったでしょ、本気にするよ、って。」
……っ。
な、なんか、
上の左右から冷気が吹いた気が。
い、いや。
ここは、もう。
「うんっ!」
「っ!」
意味なく最大級の笑顔を振りまいてみる。
ただのごまかしの笑いだけど。
これの寿命、あと10か月ちょっとだしな。
さて、と。
*
「……。」
まぁ、口、割るわけはない。
でも、そういうことなんだろうなぁ。
……にしても、
マジ、憎たらしいくらい端正な顔よな琢磨さん。
レトロ系サブカルオタクのアイコンになったアイドルの
早世した父親は絶世の美男子だったけど、
その絶頂期の状態のまま歳だけ取らせた感じ。
苦しそうに目を伏せる姿さえ絵になるって。
まどかちゃんの遺伝元、恐るべしだわ。
「ちかげさんは、知らないの?」
「……。」
知らない、と思ってるのかもだな。
千景さんの性格からして、しっかり把握してそうだけど。
「ねー、おじさん。」
「……。」
あら。
2年経つと、おじさんって言われてもいいのか。
33とか、34になると、諦めがついてくるんだろうなぁ。
「りこんしちゃ、だめだからね?」
「っ。」
なんだよ、なぁ。
「じこう、ってしってるよね?
おじさんががくせいのころなら、
とっくにそうだとおもうよ?」
「……。」
あぁ、意外に真面目だなぁ。
そうなんだよな。
めっちゃ不器用なところあるし。
「ねぇ、おじさん。」
「……。」
「まどかちゃんを私立に出したかったのは、
このまちから、はなしたかったの?」
「っ。」
図星、か。
「だいじょうぶだよ、おじさん。
ぼく、けいさつのひとにも、
ひみつをまもれるこどもって言われてるし。」
「……。」
信じてないな、その眼。
あ。
ぁあっ!
「ねぇ、おじさん、
つつもたせのひとって、
ひょっとして、このことをしってたの?」
「……
きみは、ほんとうに、なにものだい?」
ふふん。
「はるまみつあき。
小学校3年生さ。」
「……。」
あら、決まらない。
そりゃそうか。
琢磨さんには一回やってるもんな。
「……
そう、だよ。
だから、隠し通さないといけなかった。
離婚になっても、仕方ないって割り切ってたよ。」
あぁ。
だとすると、前世ではこの頃くらいに
千景さんと琢磨さんはリアル離婚へ向かってたんだ。
喋れなくて、両親が離れていくのを誰にも言えなくて、
クラス内では虐められて、担任には揉み消されて。
……不憫すぎるわ、前世のまどかちゃん。
「ちかげさんからすると、
じぶんがきらわれたっておもったろうね。」
「……。」
そう、か。
それなら、希望がある話じゃないか。
「おじさん、
ちかげさんのどこがいいの?
おかねもちだからけっこんしただけじゃないの?」
「ぶっ!?」
……
なんだよ、もう。
隠れ両片想いかよ。いい歳して。
「……。」
「いいおとなが、
はずかしくていえないなんて、
かっこわるうっ。」
「……
きみ、
そういうときだけ、こどものフリするよね。」
「こどもだもんっ。」
「……
ずるいなぁ、もう。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます