第26話


 「な、なんでいるの?」

 

 これ、住居不法侵入なんだけどっ。

 

 「みつあきくんを、つけてきたのっ。」

 

 ……は?

 

 「だって、

  わたし、かすみ先生のこと、

  しんぱいなんだもん。」

 

 う、わ。

 そういえば、気に入ってたんだっけ。

 

 いや、でも。

 

 「あのね、まどかちゃん。

  ここ、もの凄く危険かもしれないんだよ。」

 

 「うん。」

 

 「それなら。」

 

 「みつあきくん、

  まもってくれるんだよね?」

 

 うっ。

 

 「わたしも、

  みつあきくんをまもるから。」

 

 ふんす、ってしてる。

 拳をぐって握ってて、めちゃくちゃ可愛い仕草なんだけど、

 言ってることはおかしすぎる。


 ……

 あぁ。

 

 いまさらだけど、

 あたりまえすぎることだけど。

 

 黛まどかちゃんは、8歳児で。

 いろいろなことに関心を持ってしまうお年頃で。

 

 だめ、だ。

 眼、キッラキラして、見てるだけで惹き込まれる。

 ほんと、めちゃくちゃな美少女だな。

 

 それに、断ったら、一人で調べはじめかねない。

 この状態のまどかちゃんを

 一人にするほど怖いことはないわ。

 

 「……

  

  いい?

  ぼくのいうことを、きちんとまもってね。」

 

 「うんっ!!」

 

 う、わ。

 

 だめだ、輝いてる。

 ピンスポット10個くらいでライトアップされてるわ、これ。


*


 さて、と。


 ……

 書棚が空っぽっていうのが、

 めちゃくちゃ気になってんだよね。


 モヌケノカラなのに、

 なんでこれだけあるのかっていうのが。

 

 家具設置の家なら、

 もう少し置いてあるものはあるはずだし。

 

 ぜんぶ撤去してるのに、

 これだけが残ってる。


 ……

 

 この書棚、左右対称じゃない。

 左側だけちょっと広くて、真ん中に不自然なスペースがある。

 窪みみたいなのが妙に人工的で。


 ……


 へこんでる、なぁ。

 形状としてはスイッチの逆みたいになってるのか。


 ……

 

 「みつあきくんっ。」

 

 ん?

 

 げ。

 

 「ま、まどかちゃん。

  この本は?」

 

 「げんかんのくつばこにあったの。

  入ったとき。」

 

 え?

 そんなのあったっけな。

 

 あぁ、〇〇ン君みたいな

 すべてのシーンを覚えられる

 無限の写真記憶能力があればなぁ。

 

 「ちょっと、貸してくれる?」

 

 「うんっ!」

 

 ……


 なんの変哲もない電話帳

 

 ……

 のわけ、ないわ。

 電話帳って、ふつうもうちょっと大きい。

 

 縮刷版?

 見づらすぎるだろ。

 

 ……

 

 っていうか、この大きさって。


 ……

 

 やっぱり。

 不自然なスペースの窪みに、

 すぽんと埋まった。

 

 「わ。」

 

 え。

 なんか、がたぁんってなったぞ。

 軽く揺れた。

 

 あ、

 

 え゛

 

 「かいだんだよっ!」

 

 ……はぁ!?

 なにその古典的なカラクリ屋敷みたいなの。


 あ。


 え゛

 

 で、でも。

 

 い、いやっ。

 

 「あの、まどかちゃん。」

 

 「うんっ。」

 

 ワクワクしてキラキラなのはいいんだけど、

 いま、鉄の扉を開けてたよね。

 

 「その扉、ちょっと貸して。」

 

 「うんっ!」

 

 ……

 いや、決して軽くはないぞ。

 しっかり元素記号Feでできてるわ。

 

 「ねぇ、まどかちゃん。」

 

 「うんっ。」

 

 「よく、持てたね。」

 

 「だって、

  わたしもきたえてるもんっ。」

 

 は?

 

 「みつあきくん、

  きたえてるもん。」

 

 ……はぁ??

 

 っ!

 

 そ、そういえば、

 まどかちゃん、倒れてきた文果を支える時、

 し、

 文果の重さを平然と支えられていた。


 「みつあきくんとおんなじだよっ。」


 ……

 

 う、わ。

 力こぶ立ててふんすしてる。

 ぜんぜんこぶが立ってないのが可愛すぎるけども。


 ……

 確かに、英才教育じみてきたと思ったけど、

 それは知識面だけかと勝手に思ってたら。

 

 ……

 

 まどかちゃん、

 こんな儚そうな顔してるのに、

 中身、パワフル仕様にバージョンチェンジしたのか?

 

 ……

 いいのかな、この状況。

 だいぶん釣書が変わりそうだな。

 婚約相手先の家が保守的でないことを祈ろう。


 とは、いえ。

 

 「っ。」

 

 「えらいねっ!

  すごいね、まどかちゃんっ。」

 

 不安そうにしているまどかちゃんを撫でちゃう。

 だって、可愛すぎるから。

 

 「!


  う、

  うんっ!!!」


*


 「……。」


 さすがに懐中電灯くらいは準備してあった。

 ただ、こういうパターンはまったく想定してなかったわな。

 こんなのあるってわかってたら、

 業務用のでっかいやつを調達してたよ。

 

 あぁ。

 必要経費として琢磨さんにツケる手が。

 いや、こんなん二度とやらんわ。

 いろいろ危険すぎる。

 

 ……

 ん、

 

 ここ、

 なんか、空気の音が

 

 「……くふぅっ。」

 

 ん?

 

 「どうしたの、まどかちゃん。」

 

 「すっっっごく、たのしいっ!」

 

 ……

 いや、まぁ、

 そりゃ、だって、暗い場所だし、

 いつなにがどうなるか分からないから、

 手を握るしかないわけだけど。

 

 ……

 考えてみると、両手ふさがってるんだよな。

 なにかあったらどっちをどう捨てるべきなのか。

 

 ……

 明かりだよな、ふつう。

 まどかちゃんの手を離すなんてとんでもない。

 

 ……

 なんていうか、あったかい。

 めっちゃ暗い廊下を歩いてるのに。

 

 小冒険Ⅱか。

 Ⅲはナシでお願いしたい。

 ⅢからⅠの前へ戻るのは絶対にご免こうむりたい。

 

 っていうか、これ、

 思ったよりずっと長いな。

 

 敷地内だけだと思ってたのに、

 まったく終わりが見えんぞ。

 

 あぁ、

 隣のまどかちゃん、

 危険察知まったくする気ないな。

 顔に音符が書いて

 

 っ!?

 

 「まどかちゃん、僕の背中に隠れてっ!」

 

 「!

  う、うんっ!」

 

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