ピカピカの逆行転生は修羅場だらけ

@Arabeske

序章①(小学校1年生編)

第1話


 あぁ。

 だめ、だ。

 くらくら、する。

 

 たて、ない。

 ひとり、だし。

 

 やっぱり、けんさ、しとくんだった。

 救急搬送先がヤブいしゃだってわかったのに。

 ずっとず痛がしてたの

 

 ぐぁっ……

 

 おれ、の

 じん、せ、

 なん、だった


 やっぱり、

 あそこが、

 

 こう

 こうの、

 

 ぶん、き


*


 ……

 

 ……

 

 ……

 

 ……

 

 

 

  「はぁっ!?」

 

 

 

 な、な、

 なんだ、こりゃ。

 

 いや、え、なに、

 世界が、すっごくでかいんだけど。

 

 え、

 は、

 ん、

 

 って、

 っていうか、

 俺って、ゴミ部屋で、孤独死してたんじゃなかったっけ?

 

 借金を返すために、

 給料二倍、時間拘束三倍の地獄会社で、

 クソみたいなボンボンに腸を煮えくり返らせながら

 社畜として働いてたはずなんだけど。


 ……

 

 いい、いいわもう。

 ちょっと冷静になろう。

 

 ……

 なれるかっ!!


 分岐点は高校だっての。

 母さんが病気で倒れた時に高校を辞めてしまって、

 中卒になってしまったのが運のつき。

 

 奨学金を取るっていう発想がなかった。

 通信制を受けて高卒認定を取れると考えればよかった。

 あそこで、割り切ってしまうべきだった。


 ……

 えぇ……

 

 いま。

 この、カラダ。


 どう考えても、幼稚園児か、小学校1年生くらい。

 5歳から6歳ってとこか?

 

 分岐点まで10年も先じゃん。

 どうしろと。早送りできないぞ。

 

 ……

 あぁ。

 

 いっそ、

 分岐を遡るっていう発想もできるわけか。

 

 ……

 この家、なぁ。

 父さんが自殺したのが俺が12のとき、か。

 

 相当無理して買ったんだよな。

 そしてローンが払えなくなって首が廻らなくなり、

 生命保険で払おうとして自殺したんだっけ。

 なのに、自殺だと半分も下りなかったんだよな。


 ……

 つくづくと身分不相応な家だよなぁ。


 部屋、5つもあるし。

 整備された住宅街のど真ん中にある。

 なんでこんな家買えると思ったんだよ。

 若気の至りすぎるぞ春間孝明父親の名前

 

 それで、いうと。

 思い出したことも、ある。


 5歳、か。

 

 31では、できないことも。

 5歳なら、できてしまうかもしれない。


 ……

 前なら、絶っ対に考えなかったことだけど。

 

 いい、

 いいわ、もう。


 いっぺん死んだ人生なら、

 盛大に踏み外してみようじゃないか。


*


 「おとなりに引っ越してきましたぁっ。

  ごあいさつに行けって。」


 コ〇ン君戦略。

 無邪気な子どもを装って、どこまで行けるか。

 

 追い出されるだけなら、死にはしない。

 死んだ経験を持つというのは、こうも肝が据わるものか。


 「……そう、なの。」


 ザ・有閑マダムって顔だな。

 バイトすらしたことなさそうだなぁ。

 

 「うんっ!」

 

 あざといまでの無垢満面の笑み攻撃。

 

 「……ふふ。

  それは、ご苦労さまですこと。」

 

 かえって気味悪がられるかと思ったが、

 意外に素直な人っぽい。

 

 さて。

 とっかかりは、ここか。

 

 「このくつは?」

 

 「……。」

 

 貴婦人は、俺と靴を何度か見比べている。

 俺は無垢な興味津々の顔を貼り付けながら、

 じっくり見過ぎないよう、視線をほんの少しだけ高い鼻に寄せる。


 「……。


  ふふ、

  まぁ、いいわ。


  ちょうど、貴方と同じくらいの歳よ。

  入りなさい。」


 え。

 まさか、こんなにあっさりと。

 なにかの罠?


 いや、子どもはここで躊躇わない。

 〇ナ〇君なら、絶対に。


 「うんっ!

  おじゃましまぁすっ。」


 第一関門、突破。

 すげぇなショタパワー。


*


 ……

 やっぱり、相当な資産家だな。

 モデルルームの展示品みたいな家具が無造作に置いてある。

 あの置時計一個で前世の俺の月収くらいは余裕だろう。


 おっと、金目のものに関心を持つのは子どもらしくない。

 中古住宅を40年ローンで買う家の子どもに

 モノの価値など分かる訳がない。


 っていうか、この廊下、ホント長いな。

 部屋数でもう八つくらい

 

 「まどか。

  入るわよ。」

 

 「!」

 

 うわ、ノックもなしか。

 なんか、関係が垣間見えるな。


 少し重めのドアを開けた、その先に。

 

 ……

 いや、

 ここまで、とは。

 

 透き通るような白い肌。

 サラサラと流れるような整えられた髪と、

 左右対称の大きな瞳。


 惜しむらくは、口角が少し、下がっている。

 それさえなければ、ほとんど完璧なモデルになりえる。

 それこそ、一時間拘束で五万円クラスの。

 

 おっと。

 小学一年生男子、

 そんなこと、絶対考えない。


 「こんにちはっ。

  おとなりに越してきた春間満明はるまみつあきですっ。」

 

 5歳児、満面の笑み攻撃。

 効くか、効かないか。


 …… 

 たぶん、効いてないな。

 同世代には無効か。

 

 「ほら、貴方もご挨拶なさい。」

 

 「……

  まゆずみ、まどか。」

 

 あぁ。

 こういう声、なのか。

 

 なにしろ、聞いたことなかったからな。

 クラスも一緒になったことがない。

 

 4年後に

 家が隣だったって、はじめて知ったくらいだから。

 

 「いい声だねっ。」

 

 「……。」

 

 褒めてもリアクションなし。

 っていうか、思ったよりぼぅっとした娘だな。

 

 「ちょうどいいわ。

  満明君、だったかしら。」

 

 「うんっ。」

 

 31年間呼ばれなれた俺の名前。

 違う奴に生まれ変わったら大変だったな。


 「私、ちょっと出かけないといけない用事があるの。

  少しだけでいいから、この娘のお留守番、頼める?」

  

 は?

 い、いやっ。

 

 「いいよっ。」

 

 小学校一年生、なにも考えてない。

 なんで、やだ以外の選択肢はこっちしかない。

 

 「……ふふ。

  いい子ね、貴方。

  じゃ、お願いね。」

 

 ぱたん。

 

 ……

 

 ……。

 

 別に、態度豹変とかしないよな。

 

 いや、

 これ、小学生で良かったかもしれない。


 高校生とかなら、

 こんなシチュエーション、気まずさしかないけど。

 小学生だから、

 

 「じゃぁ、なにして遊ぶ?」

 

 無敵カードが切れる。

 

 ……って。

 ほんと、ぼぅっとしてるな。

 

 ……

 にしても、つくづくと細部まで整ってるな。

 子どものうちが一番肌がきめ細かいんだけど、

 肌色よりも少し白いくらいだろう。

 

 差し込んでくる光が反射して、肌が輝いてしまってる。

 これは見てて飽きないな。

 

 ん?

 

 「……

  ほん、とに、

  あそんで、くれる、の?」

 

 「うん、いいよっ。」

 

 ぇ。

 

 ふわぁっと、つぼみがほころぶような

 微笑みが浮かんだかと思うと、

 

 「うんっ!!」

 

 満面の笑みが、

 均整の取れた無表情に取って代わる。

 

 ……これ、親が隠したがるの、わかるわ。

 とんでもない破壊力だ。

 ドキっとしちゃったもの。小一相手に。

 

 「じゃ、じゃぁお人形さんあそびするねっ。」

 

 うわ、ほんとの金持ちだ。

 〇ルバ〇〇ファミリー、めっちゃ揃ってる。

 っていうか、造形めっちゃ細かいな。

 このトイレ、ミニチュアとして完成してる。


*


 がちゃっ

 

 「!」

 

 「……

  ふふ。くれたのね。」

 

 「もちろんっ。」

 

 「そう。

  ……やっぱり、思い過ごしだったのかしら。

  じゃぁもう帰っていいわ。」

 

 「……。」

 

 あ、みるみる落ち込んでる。

 なんていうか、めちゃくちゃ金持ちなわりに、

 思ったよりわかりやすい人達だな。

 

 それなら、

 

 「また遊びにきていい?」

 

 「!

  

  う、

  う、うんっ!!」

 

 うわ。

 軽く泣いてる。

 まぁ親の気持ちもわかるから、なんとも言いようがない。

 

 「……

  きみ、男の子でしょ?

  こんな人形遊びにつきあってくれなくてもいいのよ?」

 

 あ、

 なんか、隣で心のガラスが割れた音がする。

 

 「ううん、おもしろいよ。

  すっごく細かいトコまで凝ってるなって。」

 

 「……

  そう。

  変わった子ね。」

 

 こういうときは。

 

 「?」

 

 表情だけで伝えてしまう。

 

 「……

  ふふ。

  いいわ、満明くん。

  またいらっしゃい。」

 

 「うんっ。

  じゃ、またね、まどかちゃん。」

 

 「!

  う、うんっ!」

 

 ふぅ。

 ひとまず、とっかかりはできたな。

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