ハッピーエンドに死を添えて

冬輝

第1章;死なないといけないのに

〜プロローグ〜


痛い、苦しい

次々と与えられる苦痛に、僕はいつまで耐えればいいんだろう

違う、耐えるんじゃない、受け入れるんだ

これは、僕が生まれた罰なんだ


早く、死ななきゃ



〜死にたがりの子供〜


「早く起きろ!いつまで寝てるつもりだ!」

「、、、う"ぐっ、、、!」

耳元で大きな声が鼓膜を揺らした。それと同時に、お腹に鈍い痛みが走る。その衝撃で、耐えられずに吐いてしまった。むせながらうっすらと開けた目には一人の人がいつもの顔で僕の方を見ている。僕が起きたことを確認するとカーテンを乱暴に開けて部屋を出ていった。これが僕の朝。怒声と鈍い痛みで毎朝起きて、色が無くなった世界を眺める。

「、、、いきてる、、、」

昨日の夜、僕はたくさん睡眠薬を飲んだ。そのおかげで眠るように死ねたと思ったら生きてた。僕はまた、生きてしまったんだ。

「、、、ごめんなさい、、、」


・・・


今日は雨が降っている。それでも日常が変わることは無い。僕は、朝起こしに来る時以外は、いないものとして扱われるから。いつも通り、一人で何も無い時間を過ごす。それでも、頭の中は死ぬことで精一杯だ。

「、、、あ、、、いまならだれにもじゃまされないよね、、、」

引き出しの中からカッターナイフを取り出して、雨が降る外へ素足で出ていった。

みんなは、僕のことをなんとも思ってない。雨だから外に出るな、なんて言われない。

今まで辛かったことに、救いを感じたんだ。

「、、、あははっ、、、ようやく、、、ぼくは、、、」


「なにしてるの?」


「!?」


雨の中、僕の横にしゃがみ込んで傘を差し出してくれた、一人の大人だった。


〜初めて感じたもの〜


「あ、、、えっと、、、」

「どうしたのさ、雨ん中傘もささずに、、、っていうか素足じゃん!風邪ひくよ?」

「、、、!!」

なんだこの人?心配して僕に話しかけているのか?いや、期待しない。僕のこと、汚い子だってバカにするつもりなんだ。大人は、みんなそうだったから。

「、、、やめて、、、どっかいって、、、!」

「え?なんで?」

「ほっといてよ!やっとぼくは、、、!」

「死ねる?」

「、、、!」

じわっと目の奥が熱くなっていく。ダメだ、止まれ、、、!お前が泣くなって言われるだけなのに、、、!泣いたら、、、せんせーに、、、

「なんで、、、わかるの、、、?」

「カッター、自分の首に当ててただろ?それ見て焦った」

焦った、、、?僕が死ぬことに、焦っただって、、、?嘘だ、、、信じない、、、信じられない、、、


はずなのに、、、


「なんで死にたいの?」


そんなの、聞いたって、話したって、意味なんかないのに


「、、、だって、、、だって、、、」

「うん、なぁに?」


やだ


「ぼくがいるから、、、せんせーも、、、みんなも、、、いやなおもいしてるんだ、、、」

「うん」


止まれ


「はやく、、、しねばいいのにって、、、いわれてるんだもん、、、」

「、、、うん」


涙も、言葉も


「おとうさんも、、、おかあさんも、、、ぼくがダメなこだから、、、すてたの、、、」

「うん」

「いらないって、、、じゃまだって、、、どうしてこんなのをうんじゃったんだろうって、、、」

「、、、うん」

「だから、、、ぼくは、、、!しぬの!もう、だれにも、、、!いらないって、、、いわれたく、ないの!!」


溢れだしたら、止まらなくなった


「、、、そっか、、、辛かったね、、、」

「うっ、、、うぅっ、、、」

「話してくれてありがとう。君はすごいね」

「ひくっ、、、うぁ、、、っ」

「いいこ、いいこ。君はいらない子なんかじゃないよ?」

「うっ、、、うわぁぁぁぁぁぁぁぁん、、、!!」


ぎゅっと包まれた体も、初めて誰かに話した心の傷も、全部、暖かい

手に持っていたカッターナイフが自然と落ちた。何も持っていない手で、その人の服を掴んだ。

なぜか、離したくなかったから

あぁ、そっか

これが、、、


〜新しい生活〜


「ほ、本当に良いんですか?こんな出来損ないで、、、もっと他に良い子が沢山いますよ?」

「いいえ、この子がいいんです。それに、彼は出来損ないなんかじゃない。彼だって、いい子だ」

せんせーに言って、僕はこのお兄さんに引き取られることとなった。でも、素直に喜ぶことが出来なかった。また、捨てられるんじゃないかという恐怖が消えない。漠然とした不安を抱えながら部屋で待っていた。

「、、、なんであいつのほうがさきにでていくんだよ、、、」

「あのおにーさん、やさしそうだけど、どうせいまだけだよね」

「またすぐすてられるよー?あはははっ!」

部屋の前で、わざと聞こえるように他の子が話している。確かにその通りになるかもしれない、でも、今は、人を信じてみたい。

「おーい、手続き終わったよ〜!出ておいで〜?」

あ、あの人の声だ、、、本当は今すぐ部屋を出ていきたいけど他の子がいるから怖くて出られない。

「あっ、きた」

「ばいばーい!もうおまえのかおみなくてすむからうれしいぜ!」

「いっしょうかえってくんなよばーか!」

「おめーのいばしょなんかないってわかるときがきてよかったね?ぎゃははははっ!」

聞きなれた声の悪口が最後まで浴びせられるなんて、、、こんなの見たら、お兄さん嫌になってやめちゃうのかな、、、

「、、、あの子よりもいい子、ね。嘘じゃん」

「はぁ?あいつよりいいこだろ?」

「ねぇねぇ、わたしにしてよ!あいつなんかよりずっといいこだし、かわいいでしょ?」

「ごめんね、君達みたいな人に悪口言う人嫌いなんだよ、俺」

「、、、は?」

「人の事傷付けてヘラヘラ笑ってる奴ら見ると腹立つんだ。だからさっさとこんな場所から出たいの、どいて?」

、、、みんな、何も言わなくなって僕の部屋の前からいなくなった。

、、、本気、なんだ、、、

「、、、あの、、、」

「あ、ようやく出てきた。早くしないと戻って来ちゃうから行こっか」

「、、、うん、、、」


差し出されたその手を、ゆっくり握る。

その手を見て、お兄さんは笑った。

暖かくて、怖くない、優しい笑顔。




僕は、死なないといけないのに

今まで死ぬことしか考えてなかったのに

お兄さんと一緒にいたい

そう、思えるようになった


-続-


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