35話 天外な結末
「そうね~」
ようやく何かを語る素振りを見せたいすみの母を前に身体が少し硬直するのを感じた。緊張で身体がこんなにも固まるなんて入社面接でもなかったことだ。俺の身体の体温が上がったのを感知したのかそれともこの緊張感を察してなのか出力を弱めすっかり静かになる。
「じゃあ話すわね」
時間にしてさっきの言葉から数秒のはずだが体感時間は何倍もの時間が経った気がする。しかもとても快い回答が聞けるような雰囲気ではないのがさらに俺の胸を締め付ける。もうここまでか…無意識にこわばっていた表情から力が抜け情けないものになりそうな瞬間だった。くすくすといすみの母は笑みを浮かべ
「固すぎよ」
いすみの母は全く想像していなかった言葉を放った。
「そんな畏まった感じで話を聞きたかったわけじゃないのよ」
「え、、、え????」
俺は、困惑を隠しきれず素の自分を出してしまう。
「それってどういう…」
できるだけ何事もなかった体を装って俺はいすみの母に発言の意図を問いかける。
「だから、そんな畏まらないでいいのよ。そういうのは結婚前の挨拶で十分よ」
「ちょっと待ってください。全然俺にそんな意図はないですよ」
「でも、それくらいの勢いだったわよ」
確かに。思い返してみればまるであなたの娘と交際させてくださいと解釈できるようなことを言っていた気がする。そう思うと恥ずかしくなりとてもじゃないがいすみの母と目を合わすことはできなくなる。
「いや、その…なんかすみません…」
「わたしもごめんね。こんなにまじめな人だと思ってなくてつい雰囲気に合わせちゃったわ」
「雰囲気というと?」
「これから審査会みたいなものが始まるのかなっていうような重々しい雰囲気よ」
「えっと…でも…」
「そうね。最初に少し真面目に娘と仲良くやれてるか真面目に話して終わるつもりだったの。でもかけるさんがずっと畏まっているからせっかくだし久しぶりに面接官みたいにふるまうのもいいかなと思って楽しませてもらったわ」
「そ、そんな…途中で言ってくださいよ…。すごくこっちは精神的にきつかったんですよ」
「ごめんなさいね~」
緊張から一気に解けはなたれ全身から力が抜け背中が丸まっていく。変な汗も引いて少しだけべたついた不快感だけが残った。もし大丈夫ならもう一回シャワーを使わせてもらえないか後で聞いてみよう。そう思っている間もいすみの母はさっきまでのことを思い出してか時折笑っている。
「本当にごめんね。やっぱりおかしくて」
ようやく笑いが収まってきたようで話を続ける。
「本当のことを言うとここに来るまでの様子とか娘と話してる様子を見てこの人なら心配するようなことはおきないって感じてたのよ。それがここに来て少し話をして確信に変わったわ。だから改めて試すようなことをしてごめんなさい」
「いえ、それはやっぱり親として当然なことかと」
「あら、それが実はそうじゃないこともあるのよ」
「はあ」
どうも想像はつかないがそういう世界もあるようだ。まあ確かに世の中の物騒な事件を思い返せば一定数はそういう人がいてもおかしくないか。
「くどいようかもしれないけどかけるさんがすごく真面目なかただから安心して娘のことを任せられるわ。私は頭がいい訳でもないし、母親一人で育ててきたってこともあってすごく気を遣わせちゃってるから、気を抜いて話せる相手が出来てほっとしたわ。あのこ旦那が亡くなってから少しずつ笑うことが亡くなってきて最近までは本当に暗くなっていたの。だけど、かけるさんと出会ってから少しずつだけど明るくなった気がするの。変わっていったタイミングとあなたがここに来た後で、それにさっき色々話してくれた内容を重ねるとすごく納得できたわ。だからいすみに笑顔をまたくれてありがとう。」
一番いすみにとって身近な人にそんなことを言われるとなんだか恥ずかしい。俺はすこしほほを指でなぞる。ただ俺がいすみにとって少しでも役に立てているのかもしれないと思うと悪い気はしなかった。いすみが俺の心を軽くしてくれたように俺もいすみに何か出来ているんだ。
「いやこちらこそですよ。もし、いすみのためにできることがあれば何でもするんで」
そろそろお開きというような雰囲気が出てきた。そこで俺はふといすみに言われたことを思い出した。
「あ、すみません。話が変わっちゃうんですけど、夕食ありがとうございました。以前にいただいた朝食の時もそうだったんですけど。本当においしかったです」
「あらあら。わざわざありがとう」
そこからなぜか話が脱線して少しだけ雑談をしていすみの母との距離が近づいた気がした。ただもう時間もいい時間になっていたので話は打ち止めとなった。
「今日は改めてありがとうございました」
「いいのよ。わたしもかけるさんのこと気にいっちゃったわ」
「それは、光栄です?」
「じゃあ、今日はゆっくり休んでちょうだい。あと、いすみちゃん起きてるはずだから呼んできてくれないかしら」
「分かりました」
俺はソファーから立ち上がり部屋を出ようとしときだった。
「あ、それと最後に」
まだ何かあるようだ。
「どうされました?」
「私の夫実は10歳年上だったの」
「はあ…」
「だから、私は全然OKよ」
少し考え、いすみの母の言ったことの意味を理解し
「いやいや、そういう関係じゃないですから」
「ふふふ」
いすみの母はただ笑って俺のことを見つめている。
「お義母さんって呼んでもいいからね」
「すみません。その漢字は母さんですよね?」
「ふふふ」
この母あっていすみありだなと感じながら俺は部屋を後にした。暗い廊下に出ると灯りの灯った部屋がある。あそこは宿泊者が入るところではなく、今は従業員もいないはずなのできっといすみだろう。俺は部屋をのぞき込む。すると案の定そこにはいすみがスマホを触って座っていた。
「えっと、いすみ話終わったけどお母さんが来てくれって呼んでたよ」
なるべく大きな声にならないように語り掛ける。すると
「あ、うん。えっと、分かった」
なぜか顔を赤らめて俺と目を合わそうとしない。
「もういい時間だから早く寝たほうがいいよ。うん」
俺と会話をしたくないような様子なので
「えっと一応伝えたからな」
「分かってる。その、、、おやすみ」
「おやすみ」
作業的な会話で少し味気なさを感じつつもそういうテンションの時もあるよな?となんとか理解をしたつもりになり俺は今日泊まる部屋へと向かった。
唐突に飛び出した無人駅で出会ったギャルは俺の最高の相棒でした かみそりきず @masmav25
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