25話 スクリーンに広がる花

「じゃん!花火ミュージアム」

 食事を終えて俺達が向かったのはフードコートのすぐそばにあった花火に関する展示施設だった。

「ちょっと急ごうか」

 いすみは俺を急かす。展示ならば急ぐ必要は無いと思うのだが。そう思ったが理由はすぐ明らかになった。

「大人2名で」

「はい。かしこまりました」

 いすみは受付で何やらチケットを購入しようとしている。なんのチケットかと思い受付の机を見ると

「花火のシアター上映?」

「そ。リアルの花火を見るにはまだ先だけどここなら年中花火を見れるからさ。疑似体験していってよ」

 そんな会話を聞いてだろうか。受付の女性が

「上映施設で夏の花火大会をスクリーンに映して本番さながらの花火を体験できるんです。音にも映像にもこだわっているのでお楽しみいただけると思いますよ」

 と丁寧に教えてくれた。そのままの流れで俺達はお金を払いチケットを2枚受け取る。

「すぐ始まるみたいだから急ごうか」

 俺といすみは階段を上り上映シアターへと向かった。中に入るとおおよそ3分の1くらいだろうか。それくらいの人が席に腰かけ上映を待っていた。

「好きなところに座れそうだね」

「だな。ちなみにどこがいいとかあるのか?」

「それが分かんないんだよね。実はここ来るの初めてだし」

「まじか」

 すごく詳しそうだったのでてっきり詳しいのかと思っていたがそういうわけではない様だ。ということはわざわざ調べてくれたのだろうか。そうだとすると感謝しないと。とりあえず俺達は無難に中央の方で空いている席に並んで腰かけた。映画館のような椅子でかなり本格的な館内だ。スクリーンは見上げるように張られているため、背もたれには角度があり深く腰掛けられるようになっている。

 俺達が席に着いてから少しするとシアター内は暗くなった。そして館内にいた客はみな会話をやめて静寂が訪れる。そしてその静寂を切り裂くように1筋の光が頭上に広がるスクリーンへ打ちあがりパンと頭上に大きな花を咲かせる。

「うわぁ」

 1発の花火が打ちあがるやいなや次々に花火が天井に咲き誇る。観客は皆次々に花を咲かせる火花に魅入られている。リアルな花火ではないが花火を見る機会が普段ない俺からっすれば本物と同じような迫力で息を飲んでしまう。

「すごいな」

「でしょ」

 俺といすみは自然と目が合う。なんだかドキドキしてしまう。なにこれ青春か?

 花火には演目があるようで花火の色や咲き方、連発や単発といった違いを見せながら観客をますます魅了していく。花火と共にあちこちで笑顔が咲いているのが分かる。もちろん俺といすみもだ。しかし残念なことにいつの間にか花火の上映もクライマックスに突入したようで少しずつ終わりを迎える寂しさをはらみ始める。何発か連続してそして最後の1発が打ちあがる。天井には大きな大きな花が咲き誇って散っていく。そうしてすべての演目が終了し館内に明かりがともる。誰かが手をたたく。それにつられて俺や他の人も手をたたき大きな拍手となる。それだけ圧巻の内容だった。皆

「すごかったね」

「よかったね」

 と感想を語り合い館内を後にする。俺といすみも立ち上がりシアターを後にする。

「映像でこの迫力ってすごいな」

「私もびっくりしちゃった。こんな臨場感出せるんだって」

「でも本番はもっとすごいんだろ」

「最近は人が多いから場所によるかもだけどそうだね。それにやっぱり室内と外で見るのだと空気感とかも違うしさ」

「だな。なんか人多いのは嫌だけどますます気になった。本当来てよかったよ。色々考えてくれてありがと」

「急にやめてよ」

 いすみは笑って俺を軽く叩く。きっと急なお礼に照れたのだろう。一本取ったぞ。なんてやりとりをしながら1階へ戻る。やや薄暗い1階はいわゆる展示コーナーになっていて写真や花火大会の歴史が並べられていた。俺といすみはその展示コーナーに立ち寄り目を通していく。もともとはお祭りで始まった花火だが、戦争の空襲や震災からの復興を込めた祈りのイベントが今に至るようだ。何も知らなかった俺は商業イベントだと失礼ながら思っていたがこの地の人達の深い思いのこもったイベントであることを知った。

 他にも花火を打ち上げるための仕組みだったり装置が展示されていて

「こういうことらしいよ」

「本当に分かってる?」

「え??」

「これは分かってないやつだ」

「いいじゃん。雰囲気雰囲気」

 展示の最後には花火の球の断面図が設置されてあった。

「1発の中にこれだけのものが詰まってるんだね。きっと係わった人の思いもすごいんだろうね」

 いすみの言うように断面にはたくさんの火薬が規則的にそして丁寧に詰まれていた。加えて華やかさを演出する花びらになるらしい星と呼ばれるものさらに混ざらないように挟まれる紙などそれはそれはたくさんの工程が1つの玉に含まれていた。一瞬の輝きの中に職人が何時間も何日も費やした汗があると思うと熱いものを感じた。こんな思いで仕事が出来たら素敵だな。

「すごくやりがいがあるだろうね」

 俺は心の底からしみじみとそう思った。

「そんな仕事、俺にもできるかな…」

「かけるんならできるよ」

 そっとこぼした俺の独り言は、いすみの耳にも届いていたようで優しく俺に微笑みかける。

「そうかな…そうだといいな」

 俺は誰かのために生きれるようになりたいと感じた。

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