フードコート

 駅ビルから出て一通り駅の周りを周遊する。やはり人の通りは多く立派な都市という印象を受ける。同時に道路の幅も大きく交通量も多いのでやはり車が中心なんだろうなと感じる。すこしだけどんよりとした曇り空の中を歩きながら色々なお店の看板などを見たのだが興味深いことに飲食店以外の小売店はどこも閉店が早い。だいたい自分の近隣で見ると21時以降の閉店が平均的だと思っていたのだがどうやら19時閉店がデフォルトのところも多い。仕事を残業したら用事があってもいけないじゃないか。そんなことを考えつつ並行していすみと雑談を交わす。

そうして着いたのが、バス停だった。

「せっかくだし少しだけ遠くに行こ」

  ということで待つこと10分。バスが駅前のロータリーに到着する。駅に用事のある乗客を全員降ろすと折り返しでいすみが行こうとしている方向へ向かうバスへと変わる。表示では地名が出ているが失礼ながら全くどこに行くのか分からない。市役所とか病院とかショッピングモールとかいかにもバスの止まりそうなところもあるので電車のユーザーを各施設へ繋ぐ役割のあるバスなのだろう。そうなると観光地にはいかなさそうなのだが。そんな俺を見て

「着いたら分かるから」

 と行き先は教えてくれない。バスはICカードが使用できるようなので端末にかざして2人席へと向かう。いすみはどうやらICカードではなく現金のようだ。それもそのはずで

「ICカードずるくない?」

「なんで?」

「だってうちの住んでるところ非対応だからこういうときも現金なんだよ?わざわざ使わないのにモバイルカードにするのも違うし」

「なるほど」

 一応バスにも地元のICカードがあったりするようだが、あまり乗ることもないので使わないらしい。

 バスは、地元の人達でそれなりに埋まりバス停で止まる度乗客が入れ替わる。そして大体15分くらい経った頃いすみはようやく運転手に下車することを告げるボタンを押す。バスの運賃表には停留所の名前が書かれているので見てみると

「道の駅…?」

 全く想像していなかった場所だ。道の駅と言えばドライブの途中で休んだりお土産を買ったりする場所という印象で、こうしてわざわざバスでくるところという印象はない。どんなところなのだろうと思っていると右のほうに何やら大きな施設が見える。

「着いたよ。降りよ」

 バスが停車したので俺といすみは席から立ち上がり運賃を精算する。俺はすっといすみの前に立ち運転手にICカードで2人分の運賃を精算するようにお願いをする。さすがに案内してくれるいすみに支払いをさせるのは大人としてどうなのかと思ったのだ。

「別に自分のくらい払うのに」

「これくらいいいよ」

 律儀なことにいすみはこうして俺が彼女の分を払うと毎回何か声をかけてくれる。相手は大人なのにいい子だなと思う。

 まだ雪が積もって残っている歩道を慎重に歩き俺といすみは道の駅へ向かう。道の駅の建物は俺が想像しているような施設とは異なり大分現代的な建物でそして何よりも大きな駐車場を備えており広大だった。そんなことを話すと

「そういう道の駅にわざわざ連れてくるわけないじゃん」

 と笑われた。ごもっともですね。

「じゃあまずはお昼食べようか」

 いつの間にか時刻はお昼を過ぎていて言われてみればお腹がすいてきた気がする。電車の中でいすみの作ってくれたおにぎりを食べたので完全な空腹というわけではないが一度意識してしまうと何か食べたくなってきてしまう。俺といすみは道の駅に付いているフードコートへと向かった。

 さすがに休みの日ということもありフードコート内は賑わっていた。

「あちゃ~さすがに混んでるね」

「だな。席探さないとな」

 しかし家族連れや観光客と思われる人たちがこぞって集まっているのでなかなか席を確保するのは難しそうだ。俺といすみは話し合って2手に分かれることにした。どちらかが席を確保出来たら呼ぶという戦法だ。俺は食事を終えそうな人たちを見つけてその人達が不快にならないよう適切に距離を取ってマークする戦法を取る。しかし同じことを考える人は多くようやく空いたと思ったころには他の人に席が取られてしまった。いすみの様子を眺めたところ彼女も今のところ苦戦を強いられているようだ。さすがはお昼時。適当にプラプラと歩いていると再度食事を終えようとしているペアを発見する。今度こそ行けるだろう。そう思って間もなくしてそのペアは立ちがった。よし行ける。そう思い席に近づいた時だった。

「ママ空いたよ」と少し離れたところから小さな少年が駆け足で俺が確保しようとしていた机へと向かってきた。しかしわずかに俺の方が少しだけ早く席に荷物を置いていた。ただその少年の両親と思われる男女と目が合ってしまった。何とも言えない気まずい空間が広がる。

「えっと、どうぞ」

「すみません」

 俺は気まずさと少年の席が取れないで残念そうにしている表情に耐えられず席を譲りその場を離れた。

 結局席はいすみが確保してくれた。そして俺の席を譲った時のやり取りも見てたようで

「めっちゃコミュ障してるね」

 と声をかけられる。社会人になったところで仕事以外の場面ではどうしてもコミュ障を発揮してしまう。ただ仕事以外の場面ではある意味自然体でいられている証明なのかもしれない。

「ああいう場面で逆にどうするのが正解なんだろうか…?」

 いすみならどのように対応したのかを折角なので聞いてみる。

「言われてみれば難しいかも。でもああして小さな子供のために譲るかけるんはいいなって思ったよ」

「なんだか恥ずかしくなるからやめてくれ。ところでいすみはもう何食べるのか決まってるの?」

「いや、まだ」

「そうか」

 俺はひとまず荷物を置くためにいすみの確保してくれたテーブルへ案内してもらい貴重品だけ抜いて鞄を置く。そして複数あるお店の前を二人で歩いていく。

「すごくしょうもない話なんだけどさ」

「ん?」

「ショッピングモールみたいなチェーン店はないんだな。それがいいんだけど」

「さすがに観光客もここまで来てどこにでもあるお店は嫌なんじゃない」

「それはそう」

 このフードコートには、地元の米を使ったおにぎり屋さんやこの地域で人気のラーメン屋といったお店が立ち並びお腹に余裕があればここだけで複数のローカルフードを堪能できるようになっていた。そして観光客を主にしつつもあくまで道の駅ということで地元の人も足を運ぶこともあり駅の周りでありがちな観光価格設定というわけでもないのも個人的にポイントが高い。

 色々と比較した結果俺といすみはラーメンを食べることにした。いすみの分も払うつもりだったが本人がそこまでしてほしくないとのことだったので各自で支払いをして呼び出し音のなる端末を受け取って俺達は一旦席に戻る。混雑は俺達が来た時よりは落ちついているようで隣の席は空席になっていた。

「本当にタイミングだよね」

「だな」

 あれほど苦戦をしたはずの席取りも少し時間がずれるだけで難易度が段違いになるなんて。俺は周囲を見渡すと給水器を見つけたので立ち上がり水を2つコップに注ぎ席に戻る。

「飲むよね?」

「ありがと」

 いすみに水を渡し、俺は水を飲む。すると机の上でブーといすみの端末が音と振動を上げる。

「うわぁ」

突然の振動にいすみは驚く。ということは俺のももうすぐだろう。そう思った矢先俺の端末も震えだす。

「取りにいこうか」

「だね」

 ほぼ同時に注文しただけあって完成したのも同じタイミングだった。受け取り口でラーメンののったお盆をもらい俺といすみは席まで慎重に戻る。

「なんかスープこぼしちゃわないか心配にならない?」

「分かる」

「だよね」

 こうしたしょうもないやり取りで共感しあえるのが心地よい。

「じゃあ食べようか」

「だな」

「「いただきます」」

 こうして俺は、この雪国の旅で初めてご当地ラーメンを食したのだった。ちなみにエビ味噌が濃厚なラーメンでした。

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