役立たずの追放聖女は、可愛い神聖獣たちになつかれる唯一の存在でした
大舟
第1話
「アリシラ、運命によってきめられていた僕と君との婚約関係だが、ここにその関係を破棄する事を通告する」
周囲に控える貴族家の人々の視線が降り注ぐ中、この国の頂点に立つ存在であるノラン・リヒト第一王子は、私に対してそう宣告した。
そんな私の事を
…それらの声をすべてこの場でシャットダウンしてしまいたいところだけれど、今私になにか発言をすることはゆるされていない。
私はただこの場に黙って、ノラン様の言葉を待つほかなかった。
「君は聖女の家系に生まれた立派な聖女なのだろう?なのに何一つ僕の事を喜ばせる能力を持ってはいないじゃないか。これでも僕は期待していたんだぞ?聖女と言え場普通、他の人間にはないような能力を持っているものじゃないか。しかしアリシラ、君ときたら何をさせても普通で秀でたものが何もない、言ってみればなんの魅力もない女だった。…これは詐欺だろう?聖女詐欺だな」
聖女詐欺、私が生まれてこれまでに一度も聞いたことのない言葉を、ノラン様はさも当然のような雰囲気で口にする。
そしてその言葉が発せられた途端、周囲の貴族家の人々の小さな笑い声は一段と強いものとなり、より不快な音色を奏でる。
「ほら、だから言ったでしょう?アリシラなんかじゃノラン様の隣に立つのはふさわしくないと…」
「そもそも、身の程をわきまえてなさすぎるのよね…。詳しくは知らないけれど、アリシラってたまたま受けた教会の聖女の血縁判定で反応が出ただけの存在なのでしょう?」
「そうそう。でも結局彼女にはなんの魅力も備わっていなかったから、とんだ期待外れだったらしいわよ。ノラン様がお怒りになられるのも無理ないわね。やっぱり、教会に何か賄賂でも流して聖女だって事にしてもらうように頼み込んだんじゃないかしら?」
…自分の事ではないからだと、好き勝手なことを言い始める貴族令嬢たち。
あえて反論させてもらうと、私は家で普通に生活していたところを、ノラン様の命令で無理やり聖女の血縁判定試験を受けることになったのだ。
その結果、向こうにとってうれしい結果が出たらしく、私はそのまま有無を言わさずノラン様の婚約者候補としてこの王室まで連れてこられることになった。
どうやらノラン様は、この国のどこかにいるとされていた聖女の血を引く存在を探し続けていたらしく、それに私は見事に引っかかってしまったらしい。
「グレムリー教皇もおちたものだなぁ…。こんなろくでもない女を、聖女の血を引く存在などと言いよって…。優れた大司教だと聞いていたからこそ依頼をしたが、
彼が口にしたグレムリー教皇こそ、私の事を聖女の血を引く存在だと判定した人だった。
教会に仕える者の中で最も高い地位にいる人物で、その優秀さは様々な人物によって認められている。
そんな彼が自信をもって判定した結果であっても、ノラン様は認められないらしい。
「おっと、まだ反論を許していなかったな。まぁ僕になにか言葉を言えるほどの資格が君にあるとは思えないが、何か言いたいことがあるなら聞かせてもらおう。さぁ、好きな言葉を言うと良い」
嫌らしい笑みを浮かべながら、ノラン様は私に対してそう言葉を放つ。
…分かっている。
私がここで何か言葉を返したなら、きっと私は今以上に良くない環境に追いやられることとなる。
私はこのまま何の言葉も返さず、ただ黙ってノラン様から言われた言葉を受け入れ、静かにこの場を立ち去るのが一番いい事なのだろう。
ノラン様はその事を分かっているからこそ、何も言い返してこないであろう私の事をにやにやとした表情で見つめてきているのだろう。
…けれど、私はそこである言葉を返したくなった。
ただ黙って去ることは嫌だった。
「では遠慮なく。ノラン様、私は教会でグレムリー教皇からこう言葉をかけられました。『私には未来が見えています。あなたが婚約者としてノラン様の隣に並び立てば、この国は絶大なる力の存在によって大きな進歩を遂げることになる』と。私をここから追放されたなら、きっと非常によろしくないことが起きることと思いますが…。本当にそれでもかまわないのですね?」
「ク、ククク……。ハハハハハ!!!!」
私の言葉を聞いたノラン様はその場で高笑いをはじめ、その声は広い王室の中にこだまする。
そしてノラン様の反応を受けてか、この場にいるほかの人たちもまた大きな声で高笑いをはじめ、私の言葉を鼻で笑う。
「ま、まさか…。命乞いにそんな大嘘を言ってくるだなんて…」
「ま、まぁ聞く分には愉快で面白いじゃない…♪」
「ノラン様の事を騙して近づいたかと思ったら、その嘘を暴かれてまた違う嘘を言い始める、生きていて恥ずかしくないのかしら?」
そのような言葉を彼女たちはつぶやき、楽し気な表情を浮かべる。
そしてその後すぐに、ノラン様がこう私に言葉を発した。
「よくもまぁそんな嘘が付けるものだなぁ…。さすがはこの僕を騙して権力を手にしようとした性悪な女なだけはある…。ある意味僕は君をほめてあげたいくらいだよ。期待外れなままでいてくれて、ありがとうとね♪」
私は何も嘘を言ってはいない。
それは確かにあの時、教皇様からかけられた言葉だった。
…しかし、ここにいる誰も私の言葉を信用してはいない様子…。
だからこそこのような態度をとってくるわけだけれど、彼女たちはすぐに理解することになる。
自分たちが言っていることと、教皇様の見立ての言葉、そのどちらが正しかったのかを…。
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