第5話 フウキの意向は……

静かな面持ちで私たちの会話を聞いていたフウキ。

リュウキがそんなフウキに近付いて、その肩に腕を乗せた。


「フウキ、良いのかー?お前が不在の隙に、俺がララを獲っちゃってもーって、あ、そうか。分かったぞ!お前、おバカなララの提案に乗るのをプライドが許さないんだろ?やれやれ、変な意地張っちゃってさー」


ニヤニヤしながら茶化すように言うリュウキ。

あ、また私のことバカって言ったなあ!

フウキだけじゃなくて、リュウキまでひどいよ!2人して、いつも私をバカにしてくるんだから。

私がむくれてプンプンしてると、そんな私とリュウキを交互に見てフウキがため息をついた。


「リュウキ、俺に揺さぶりをかけて誘導すんなよ。分かってんぞ、お前がそういうの大の得意だってのは」


柔らかい声とは裏腹に刺すような視線を向けるフウキに、リュウキは両手を上げて降参と言うような表情を浮かべる。


「バレたかー。だが、悪いとは思ってないぜ。俺たちにはお前の力が必要なんだからな。アクアと俺は頭脳派、だから肉体派のお前の力が必要不可欠だ。1人、思い付きで行動する困ったやつがいるしな。頼むよ、一緒に行こうぜ?噂の真相を確かめにさ」


だけど、その瞳は強い光を浮かべてフウキを見つめ返していた。

その意志の強さに折れたのか、フウキは仕方なさそうに息をつく。


「分かったよ、仕方ない。同行してやる。それに、あいつが暴走した時に止めるのは俺の仕事だしな」


そう言って私を見るフウキ。

うん、何で私見られてるの?

そんなフウキに私が首を傾げると、アクアがわっと声を上げた。


「しっかり者のフウキ君が一緒ならとっても心強いよ!」


キラキラとした目で見つめられて、フウキは肩をすくめて笑う。


「俺、そんな持ち上げられるほどの人間じゃないよ」


フウキの言葉を聞いて、アクアは大きく首を振った。


「そんなことないわ。フウキ君がいるだけで場が安全になるもの。ほら、授業の時にララちゃんが間違って高位の魔物を召喚した時も、攻撃的になってた魔物を鎮めたりして場を収めてくれたのはフウキ君じゃない」


あさっての方向を見て頬を染めるアクアはどうやら、その時のフウキのカッコ良かったシーンのリプレイを頭の中で思い浮かべているようだった。

そんなアクアの言葉に、フウキはハッとした様子で口を開く。


「確かに、こいつと一緒だとロクなことがないもんな。この間なんか、掃除の時間に机を移動する呪文を唱えて、俺たちの机壊して粉々にしかけたし、その前はどこの鳥か分からんような教室が埋まるくらいのデッカい鳥を召喚したりして、学校中が大騒ぎになったし……。ああ、夏休みの時なんか……」


この間じゃないもん、だいぶ前の話でしょ、それ!

すっかり、私の起こした珍事件を思い出すのにハマってしまったフウキは置いといて……。


「アクア、フウキが一緒に行ってくれるみたいだから、良かったね!」


ポッと頬を染めるアクアを見て、私は微笑む。

ハッとした表情になって、アクアはフウキのカッコいいシーンリプレイ集から戻ってくる。


「べ、べべべ、別にフウキ君がいるからこんなに嬉しがってるわけじゃないよ。みんなで行けるのが嬉しいんだから」


その慌てた様子がおかしくて、私は込み上げてくる笑いを抑えながら言った。


「え〜、素直じゃないなあ」


すると、アクアは拗ねたように横を向く。


「ひどい、ララちゃん。私のこと、からかって楽しんでるでしょ?」


「アクアって意外とからかいがいあるよね〜」


私がニヤニヤしながら言うと、


「人をからかって楽しまないの!もう……。ララちゃん、リュウキ君みたいだよ?」


アクアが頬を膨らませて言った。

その表情がおかしくて、また笑いが込み上げる。


「ぷっ、あははははっ。アクア、何その顔、おかしい!」


我慢出来ずに吹き出すと、つられてアクアも吹き出した。


「ぷっ、あはははははっ。ララちゃん、何で笑っ……あははははっ」


すると、私たちの笑う声で、やっとフウキが正気に戻る。


「え、何で笑ってんだ?2人とも」


きょとんとした顔で言うフウキに、またもや笑いの波に飲まれそうになる。


「女子たちが楽しそうで何よりってことさ。それよりお前、今結構面白い顔してんぞ?ぶふっ、ふふっ。くっ」


それまで黙ってその様子を見ていたリュウキが、フウキを見て声を抑えながらも盛大に笑う。

一方、全く話の見えてこないフウキは、


「はあ?何の話か全く分からないんだが。笑ってないでちゃんと話せよ!」


と少しイラついた様子だった。


「うわあ、その顔、めっちゃ間抜けー。ふふっ」


リュウキがからかうように言って、火に油を注ぐように笑い始めたので、


「リュウキ、お前、いい加減にしろよ。人をからかって楽しむんじゃねえ!」


フウキの怒りに火を付けてしまった。

あちゃあ〜。リュウキ、やり過ぎだよお。

フウキって一度機嫌を損ねると治りにくいからなあ。


不機嫌オーラ増し増しのフウキ、私は助けを求めてアクアを見る。

いつもだったら同じ男の子同士のリュウキがなだめたり何やかんやしてくれるんだけど、今回はそのリュウキ本人が発端だった上にツボにハマっていてどうにもならなかった。

私が声をかけると逆に喧嘩に発展しちゃうから(何故か口喧嘩になっちゃうんだよね)、頼みの綱はアクアしかいない。

アクアは同じように私を見つめ返したが、仕方なくため息をついて口を開いた。


「あ、みんな、噂の真相を確かめに行くならその前に、計画を立てなきゃだよ!調べものなら、ネージュにある古い図書館に行くのはどうかな?あそこなら、人間界みたいにタブーとされてるものやあまり表向きには出ていない情報も豊富そうじゃない?」


人差し指を立ててみんなの顔を見回して言うアクアに、私たちは順々に頷く。


「うん、いいと思う!案内は任せて」

「俺もいい提案だと思う。いつも場をまとめてくれてありがとな、アクア」

「さっすがアクア!ララ、お前は案内任せてとか言っておきながら、道に迷うなよ?」


迷わないもん、余計なお世話だよ!リュウキ!

からかってくるリュウキにむっとする私を見て、フウキが眉を上げる。


「リュウキの心配も杞憂じゃねえかもな。お前、地図読めねえし。とりあえず迷子にはならないようにして下さいよ、隊長」


いつの間にかリュウキとダッグを組んでいるフウキ。

私はフウキたちを笑顔でスルーしながら、アクアに言う。


「さ、そこの2人は放っとして、帰りましょ〜」


アクアはみんなで帰らないの?と不思議そうな顔をしつつ頷いた。

一方、リュウキはニヤッと笑うと、フウキを見てその肩を叩く。

フウキはリュウキを見て片眉を上げると、帰る準備を始める。

え、私?私はね〜、教科書とかは全部置き勉してるから、持って帰るものが少ないから帰る準備はすぐ終わったよ。

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