第9話 各々の試み
俺、黒崎 迅とお嬢、公家院 華は数多くある公家院家の別荘に来ていた。
「迅。手加減はいらないわ。本気で来なさい」
お嬢はやる気満々で叫ぶ。
別荘地の森の中、2人で修業をしているところだ。
「本気でやったらお嬢がすねるんでやめときます」
「そうゆうことを口に出すからすねるのよ!」
指をさして、言動を注意される。
「まあいいわ。こっちが本気なら手加減なんてできないでしょう」
お嬢は右手につけている指輪に問いかける。
『我望むは力なり。数多の困難を超えるため、顕現せよ!』
『
大砲並みの大きさを持つ銃がお嬢の手元に現れる。
両手で掴まないと重量に耐え切れない。
左右には近接用の剣が2本ついている。
お嬢の持つ武器。
あれに凝縮された魔力弾は破壊力が高い。
青色系統とは相性がピッタリだ。
「俺と修行っていうからてっきり、肉弾戦かと思ったけど違うんすね」
「肉弾戦がメインだけど、今の私がどこまでできるかを試すいい機会だからね」
話している間に長銃魔装に魔力が注がれていく。
「ちゃんと食らいなさいよ!」
ドオォォォォォン。
注意喚起?と同時に銃口から放たれる。
俺は鞘付き剣を取り出し、前に構える。
「はぁぁっ!」
魔力弾を真っ二つに切り裂く。
2つに切り裂いた魔力弾は後ろに流れ、ブルドーザーが通ったかのような平地となっている。
「なんで鞘で斬れるのよ!」
そんなこと言われても、斬れるものは仕方ない。
「お嬢。
「…分かったわ」
そう言って、
「では、本来の修行お願いするわ!」
互いに走り出し、
キイィィィンとぶつかる音が鳴り響いていった。
ー東郷 大樹視点ー
「お前は選ばれたってのになんでそんな顔してんだ?」
大樹は滝に打たれながら、水のたまった池で足を浸けているうさみに問いかける。
「…滝の音で何言ってるか聞こえないけど、言いたいことはなんとなく分かるわ」
素足をバタバタと動かしながらぼーっと一点を見つめる。
「実力不足なのよ、私。ほどほどに過ごして、卒業して、未来が安定してたらそれでいいのよ」
途切れ途切れに言葉を発する。
「…そうゆうあんたは勝てるビジョンはあるのかしら」
大樹に問いかけるも返答はなし。
「…まさかあんた」
うさみの予感は的中する。
「自分から聞いといて、何も聞こえてないってオチ?…呆れた」
うんざりした表情を見せるうさみ。
滝から出てきた大樹の第一声は、
「おっ、ようやく顔が変わったな」
ニコニコしながらうさみに笑いかける。
これがほんの少しでも嫌味が混ざっていれば、うさみも悪態ついて適当にあしらえるのだが。
この男、嘘はつかず、一点の曇りなく、本心で話す。
この男の本質をうさみは分かっているため、言い返すことはしない。
「んで?勝ち残れるビジョンはあるのかって聞いてんのよ」
大樹は右手の親指を立てて、はっきりと告げる。
「気合と根性!」
再び呆れるうさみ。
これは、一回戦負けね。ご愁傷。
「忍耐力をつけるには、滝ってわけだ!うさみも来いよ」
「誰か行くか馬鹿!」
うさみの大きな声が響き渡っていった。
ー天縫糸 花音視点ー
「…どうしよう」
私、天縫糸 花音は迷っていた。
「…新人戦なんて、むりだよぉ」
不安と緊張で押し潰されそうになっている。
「…華ちゃんは黒崎くんと、うさみさんは東郷くんと修行するって言ってたっけ。華ちゃんたちは言わずもがなだけど。うさみさんたちが一緒なのって、案外あの2人って…ふふっ」
勝手な妄想を膨らませ、嬉しそうに微笑む。
そんな上の空だったせいか、前方の人に気づかずぶつかる。
ドンっ。
びっくりしながら、尻もちをつく。
「…あっ、私の前方不注意ですっ。ごめんなさい」
顔を上げ、謝罪をする。
ぶつかった相手は、同じクラスルームの女子生徒だ。
「ったいなぁ。前見てよね。…あれ?誰かと思ったら、公家院さんの金魚の糞じゃない」
ドクンッ。
私の心臓が跳ね上げる。
「新人戦にも選ばれて、公家院さんと一緒にいることも増えて、いつのまにか上の存在ってわけ?」
「…いえ、そうゆうわけでは…」
言葉が出てこない。
この間の件がフラッシュバックされ、うまく話すことができない。
「今日は公家院さんはいないみたいね。1人じゃなにもできないくせに」
私の中で昔の記憶がふと、思い出される。
『ままぁ、あの子ずっとぬいぐるみと話しているよ』
『かのんちゃんはわたしたちよりぬいぐるみのほうが良いんだ』
『あの子は人形が友達だから』
…その通り。
私は一人では何もできないただのぼっち。
一人で人形と遊ぶことしかできない。
なにもいえず、ただ黙っていると、
「お主もけいたいをみておったから前を向いておらんかったじゃろ。人のせいにするでない」
少し、老人臭い話し方の声が聞こえる。
「なっ。だれ…?」
女子生徒は周りを見渡す。
ふと上を見上げると声の主はいた。
「…クノウ」
天井から逆さ吊りで現れたのは、イチカ・クノウさん。
新人戦の参加する選手の1人だ。
「才能や人脈に嫉妬するのは分からんでもないが、そういうやり方は関心しないのう」
「…ちっ」
ぶつかった女子生徒は言い返すこともできずにその場から離れる。
「大丈夫かのう?」
イチカさんは優しく、手を差し伸べる。
「…ありがとうございます。私なんかのために」
「なあに。くらすめいとを心配したり助けたりするのは、ともに学び舎を過ごす上では当然のことじゃ」
「…わたしにはそんなことできません」
「…?しておるではないか」
「…イチカさん。誰かと間違っていませんか?例えばそれこそ華ちゃんとかうさみさんとか」
「うーむ、たしかに2人ともわしは知ってはおるが。間違えたりはしてないぞ?お主がいつも周りへの気配りを欠かさず、周囲がしっかり見えていることを。それこそお主はその2人といつも何をしておる?」
「…なにをって、お話ししたり一緒に過ごしたり…」
「それじゃよ。できておるではないか。お主は他人のことを思いやることができる人間じゃ。そう悲観することはないぞ」
「…そうなんですかね」
「お主が気づいていないだけで、他の物はお主のことを大切にしておると思うぞ?自覚するのはなかなか難しいものよの。少しずつでいいと思うのじゃ。…それでは、忍忍」
そういってイチカさんは両手で忍者ポーズをとり、窓から出ていった。
「…わたしは、華ちゃんたちに何かできてるのかな…」
ーレオナルド・テリオス視点ー
「なあレオ。なんか特訓とかしなくてもいいのかよ」
昼食のチャーハンを食べながら金髪のイケメン、レオナルド・テリオスに問いかけるのは、ツーブロック髪の男 吉田 圭吾。
「日々の鍛錬を行っていれば動じることはないよ、圭吾」
「ほうかい」
大盛りのチャーハンを口いっぱいに頬張る。
隣に置いている大盛りラーメンも手を付け始める。
「そうゆう君はどうなんだい?」
「おれは今更特訓したところで何か変わるわけじゃないしな」
「…なるほど。一理あるかもしれないな。それにしても珍しくよく食べるじゃないか。急にどうしたんだい?」
「いやあ、これから新人戦までひたすら食べて食べて食べまくってエネルギーに変えようと思ってさ」
ラーメンの麺をズズズッと吸いながら質問に答える。
「新人戦は明日ってわけじゃないんだぞ?…前日までずっとその食生活をするつもりかい?」
「まかせな」
「…体調管理はしっかりしておくことだ。当日痛い目を見るぞ」
「だいじょふ。だいじょふ。おばちゃーん!このチャーハンとラーメン追加で!」
「…まだ食べるのか」
呆れた様子のレオナルドだった。
ー美登・H・紫翁視点ー
…真っ暗な空間の中、1本のろうそくに火が灯っている。
藍色の短い髪を結び、正座しているのは美登・H・紫翁。
静寂だけがこの空間を占めている。
カッと目を見開き、日本刀を振りかぶる。
ろうそくの火が消える。
火だけを切ったようだ。
「…」
一言も発することなく、再び正座をする紫翁。
再び、静寂だけが過ぎていくのであった。
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