わたし記念日

桜紗あくた

わたし記念日

「……これください」

 20歳になった。

 私もこれで大人になったということ。

 でも、大人ってなんだろう。

「あ、すいません。あとこれと……これも」

 こうやって、お金を気にせずに使うこと?

「ありがとうございましたー」

 お店を出ると、高くに昇る太陽の光が照りつける。

 手から吊るされた袋を、揺らさないように用心深く。

 しかし急ぎながら、車に乗り込む。

 守る人のいない隣のシートベルトにそれを託す。

 もっとも、期待はしていない。

『――暫く続いたお天気も、今日でおしまい。

 明日から天気は下り坂です――』

 勝手に流れるラジオ。

 車はゆっくり、丁寧に進む。

 バックミラーを見ると、自分の片目が写った。

 今日のアイメイクは、大人っぽく。

 メイク動画を参考にしたけど、ちょっと失敗してしまった。

 早く上手にならないと。大人なんだから。

「……あ、お酒買わないと」

 大人の証明だもの。

 アパート近くのコンビニに寄る。

 お酒の陳列棚の前に立って見渡すけど、正直、どれがいいとかわからない。

 最初だし……。

 そう思って、アルコール3パーセントと書いてある缶を2つ手に取る。

 カゴにそれらを入れると、なんだか物足りなかった。

 大人……大人……。

 正解のない借り物競争をしているみたいだ。

 ぐるぐるぐる、と店内を3周くらいして、お菓子コーナーで足を止める。

 アルコールの入ったチョコレートが目に留まった。

 これだ!

 そう思って手を伸ばして、考える。

 ……大人って、なんだろう。

 いくつか商品をカゴに入れて、レジに向かう。

 年齢確認は、されなかった。




「お誕生日おめでとう、私」

 一人で囲む小さなテーブルには、少しの料理。

 料理は、たくさんのお菓子と、3つの小さなケーキで囲まれている。

 料理に手を伸ばして、少し悩んだ。

 結局、手に取ったのはケーキ。

 綺麗な赤い苺が、威張って上に乗っかっている。

 そいつをフォークで最初に突き刺した。

 私、小さい時から好きな物は最初に食べる派だから。

 なんとなく、後ろの立ち鏡を振り返る。

 写っていたのは、ただの「19歳の私」だった。

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