火の音
逆井英治
火の音
ブンブン動く体に耳を澄ませてみても、揺れるバスと鼓動、揺れる心臓の鼓動に徒党を組むように現れては消え、現れては消え、すぐに俺の目の前で踊り出す。視界に杖をつくジジイを当てはめても、揺れているのはジジイの杖で俺は頭がズンズン傾いていく。重低音だったら、良い勝負、すぐにここから飛び出す、各駅で止まっている場合ではないつもりが、立ち返るこの場所、この狂おしいほどの急かされるデジャブを目指す同じ女に同じスクールに通るこの声はいつもつまらない。そういう物事に嫌気がさすほど分刻みに寸法が決まるから来る来る回る思考をふるいにかけると、段々重低音に向けて終点にボタンの光が灯る。降りた海辺に並ぶバスと並ぶ俺、俺、俺、飛びたい理性に歯止めがかかるフリフリなスカート、飛ぶ振りならいつでもできるカラフルなノイズを囲えば止まらないグルーブをそのままそのまま。外すイヤホン。鼓動のビートが削れた海岸心情映る。心底うんざり強がり、気温が体が島を拒否する。閉じていくドーパミン、一日にして真っ暗闇。追いかけながら追いかけ回す鋭い狂いするする伸びる。ビヨーンと伸びたら、思い思いで気になる遠い遠い思い出。どう?どう? うるさい馬のようなお前の後ろの顔ぶれ。人生のリズムに希少な事象。ほう、ほう、わかったふり上がったふり、はかった無味、なかったうち、つまり管轄外の話。浮いた自意識は大事に見守る。いつでも後から刺す準備はできてる、困ったら見放す機会を伺う自分自身。今日はここまで。いちいちそこまでの期待はしてない。次のバスを待つまでの間、何をする。見渡せば遮るものは見えない不安。あとはかもめの巣のような頭をした杖をついたジジイ。その杖で地面を抉るコツンコツン。「なあどうすればいい」コツンコツン。「なあどこにいようが変わらないだろう」コツンコツン。「なあ音楽を止めてくれ」コツンコツン、トントン、ブンブンブン。じっと構える心が欲しい。歳の割になんだその頭。その若い頭に秘訣はあるかい。次に来るバスはいつになる。おい、付きまとうな遺影か土に帰れ、黙れ下がれ、抗え孤高の外側に。確かこの辺にサーフボード、頭の取れた首なしサーフボード。誰にも乗れない、捨てられない、古いボード。杖で突かれた俺の頭。虚空を殴る俺の言葉。空中浮遊にたゆたう仮の大人。無理して振る舞う全身無防備頭にヘルメット。海沿い走るガソリンの匂い。気づくと馴染むグレーな狼煙。やってきたバス。ヘルメット被った運転手にスイカをチャージ。価値観を上塗り、優先席に鎮座。ジジイに小突かれ、正気に戻る。ここどこすぐそこ見える家。あれ、俺の家どこだっけ。郵便ポストの爆弾でドカン。今日も記憶をいじくる深層心理のお医者さん。リズムに鼓動に堂々巡りの純白ライフ。遺影に閉じ込めジジイに合掌。帰ってうがい手洗い死体まがい。あとは家族に火をつける。住宅街に火が灯る。
火の音 逆井英治 @eijisakai_
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