最強カードブリーダースキル持ちの俺はサキュバス妖精と旅をする

@tora-tora64

第1話 妖精は黙っていれば妖精である。

「異世界生活も楽じゃねぇなぁ」


 人気のない裏路地で腰を下ろし、ポケットからカードを取り出す。


 スライム9枚、ゴブリン4枚


 異世界に転生したときに神から与えられたスキル「カードブリーダー」

 モンスターを倒せばそのモンスターのカードを得ることが出来る。

 カードはいつでも使用可能で、使うと固有の能力が自身に付加される。

 

 防 スライム 物理攻撃軽減:微 

 攻 ゴブリン 物理攻撃増加:微


 異世界に転生した時は凄いテンションが上がった。

 人生をやり直せるということがなにより嬉しかった。

 さらにスキルも前世でカード集めをしていた俺にとってこれ以上ないスキル。

 でも冒険するにつれてこのカードブリーダーというスキルは非常に微妙だということが判明。

 

 まず使い捨てなのがダメだ。

 カードを使用すれば戦闘中はその能力が持続するのだが、カードコレクターの俺としてはせっかく集めたカードが消滅するとかありえない。

 次に重ね掛けが出来ないこと。

 カードは何枚でも使えるけど、例えば同じスライムのカードをどれだけ重ねて使っても、攻撃軽減微は微の効果しかない。

 そして最後、これが現状一番の問題なのだが、カードに金銭的な価値がないということ。

 ほかの人からすれば紙に書かれているただのモンスターの絵。

 そりゃそうなんだけどさ。

 カードを使えるのは俺だけだし、異世界にカードを集める文化なんてないし。

 転生してから早数カ月。

 冒険者としてこのスキルを駆使して頑張ってきたけど、なんかいろいろと限界を感じてきてしまっている。


「これからどうすっかなぁ……」


「可愛いスライムの絵ですね!」 


「まあな。実はこれに書かれているスライムって微妙に違うんだよ。能力は同じなんだけど絵は……」


 突然声を掛けられ辺りを見回すが……誰もいない。

 確かにいま声がしたのに!?


「ここですよ」


 首の後ろをツンツンされ振り返ると、そこには妖精のような小さい生き物が空を飛んでいた。


「妖精さん? 珍しいね」


「よ、妖精の私を見ても驚かないなんて意外です!」


 羽をパタパタさせて浮遊している妖精さん。

 手の平サイズでとても可愛いのだが全体的に黒ずくめ。

 黒髪のボブカットに身に着けている服もバニーガールのような黒の衣装、羽も黒。


「いるってことはわかってたから」


「そ、そうですか! いま私はとてもお腹が空いています!」


「そうなんだ。ちょうど酒場行くところだったけど一緒に食べる?」


「そんな尻の軽い女に見えますか?」


 予想外の返答に、酒場を指さしていた腕が下がる。

 そういえば妖精は人がいる場所は苦手というのが定説だったな。 

 これはちょっと配慮が足りなかったと反省する。


「あぁごめん。人がいるところは嫌だよね。だったら何か買ってこようか?」


「随分優しいですね。お腹を満たして私に恩を売って……エッチなことをしちゃおうという魂胆ですね!?」 


 突然小さい体をクネクネする妖精。

 その仕草はとても可愛いのだが、言っている意味がわからない。

 無表情でその様子を観察していると、自身のやっていることが恥ずかしくなったのか妖精は顔を赤くする。


「て、てめぇ! よ、欲情しねぇのかよ!」


 今度は小さい手をグーにして怒り始めた。

 口調も急に荒くなったけど、それでも妖精さんは見ていて可愛いと感じる。


「可愛いとは思っています」


「うん、それなら許す。でもムラムラしてほしいです。ムラムラっていうのはエッチな気分になることです」


「俺がムラムラすればいいのか?」


 妖精はコクコクと頷く。

 どういうことなのか詳しく話を聞いてみると、妖精というのは人の性を吸って生きているらしい。

 そんなこと初めて聞いたが、この異世界の妖精はそうなっているのかと無理やり納得する。

 

「私けっこう可愛いと思うのですが、ムラムラしませんか」


 上目遣いでウルウルとした瞳をこちらに向けてくる妖精さん。

 可愛いとは思うけど、こんなお人形みたいなものにムラムラはしない。


「しない」


「死ね!」


 もの凄い気性の荒さだ。

 俺の想像していた妖精と違う。

 腕を組みムッとした表情を浮かべる妖精を観察していると俺はあることに気付く。

 妖精に尻尾がある。

 先端が尖った黒い尻尾、小さいとはいえこれで刺されたら痛そうだ。


「お前がムラムラしないとお腹が満たされないんだよ! ムラムラしろ!」


「そんなこと言われてもこんな街中でエッチな気分にならないだろ」


「これだから童貞は……」


「おいちょっとまて! な、なんで、いや! 俺が童貞かはお前にわからないだろ!?」


 くそっ、いきなりのことで声が上ずってしまった。


「私はわかるんです! 隠しても無駄。むっつりスケベのハルトさん」


 このあと俺は、妖精の恐ろしいスキルを目の当りにする。

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