孤独の距離、寂しさの檻

桐麻

始まり

第1話

 この小さな古い町の中心。

 由緒ある方の住まう屋敷が、小高い岡の上に佇んでいる。


 私が初めて旦那様と奥様を見たのは、その屋敷を解放して年に一度開かれる、伝統的なガーデンパーティーでのことだった。


 町の年頃の若者達と、彼らを見せびらかしたい親達の集う、いわゆる社交界へのお披露目会だ。


 ダンスホールを見下ろす階段上に館の主が現れると、集った者は小さな音でも聞き逃すまいと、しんと静まり返り、その悠々とした姿に注視した。


 館の主人であり、主催者でもある男が、短く開始の言葉を告げる。

 若者達は歓声を上げ、各々の関心事――踊りと、その相手を探すことへと心を移した。




 その場の主役はもう一人。

 皆が尊敬の念を込めて見上げた男とは、間逆の存在があった。


 高い天井から下げられたカーテンの陰と同化するように気配を消していたのは、触れれば折れそうな女だ。

 まるで何者を脅かすことのないようにと控えめな動作で、広い会場へと一歩踏み出す。


 しかし近くにいる者達は気付く端から眉を顰め、細心の注意を払って一定の距離を空けた。

 慎重な者は視線を避けるように、横柄な者は蔑みつつ。


 しかし皆が同時に避ける姿は皮肉にも、ある意味、館の主への敬いによる距離感と同様であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る