第200話

水絵さんに勝手に連れて来られた小動物カフェを出て、近くの駅まで行けば、そこは東京本部に近い駅だった。



水絵さんから聞いた六神を脅していたという真実に、私はいてもたってもいられなくて。



怖い気持ちは痛いほど分かる。隠したい気持ちは痛いほど分かる。



私も六神に面倒な女だと思われて嫌われるのが怖かった。



水絵さんという彼女がいる手前、自分が少しでも六神に未練を残していると思われるのが怖かった。



その分悲しかった痛みも大きいけれど、それを凌駕するほど今は六神を愛する気持ちでいっぱいだ。 



あの時、泣いていた私を見つけてくれたのが六神でよかった。



弱い私に、ずっと前から気付いてくれていたのが六神でよかった。



六神を好きになってよかった。



無駄な時間と水絵さんには言われたけれど、自分の選択は全てが全て間違ったものではなかった。彼女にも、ある意味お礼をいうべきなのかもしれない。



邪魔して頂いたお陰で、私は今こんなにも六神を大切にしたいと思えるのだから。



だから、けじめをつけなければならない。






『はい、』


「あ、先輩…」


『…お疲れ実来。そっちから電話くれるなんて珍しいね。お兄さんに会いたくなっちゃった?』



穏やかな先輩の声が胸に染みる。



声だけで呑まれてしまいそうな雰囲気に、私はスマホを持つ手に力を込めた。



「……先輩、お話があります。」

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