第193話
農政局を辞める時は、案の定引き止められた。
わざわざ大学から佐渡が来た時は、只事じゃないのだと実感した。
「頼むよ六神くん!どうか農政局に残ってほしい!」
農政局の応接室で、低い机を前に頭を下げる佐渡。まだ卒業して一年半しか経っていないのに、少し老けたように見えた。
「先生には悪いんですけど、俺もうすでに央海倉庫の内定貰ってまして。」
「困るよ、そういうのはせめて相談してからにしてほしかったよ。」
俺にとっては全く困らないというのに、平気で自己中発言をされてあの時の憎悪が次第に思い出される。
「困ると言われても。俺は元々この職種に興味があったわけでもないですし、」
「だが最終的に入社すると決めたのは君じゃないか。」
「はい、だから今回の辞職も自分で決めたんです。」
「たかが一年半で辞めるなんて!社会人として失格じゃないか!」
普段は温厚な佐渡が急に声を荒げる。相当まずい状況なのだろう。
「……学長にも、ここの局長にも、なんとしてでも引き止めてこいと言われてるんだよ。」
「…………」
「それなら取引ならいいか?君は何が欲しい?」
「は?」
「僕のポケットマネーから出してあげるから。頼むよ。もし今君が農政局を辞めれば、僕の立場どころか居場所まで失くなる可能性だってあるんだ。」
「居場所って。まさか、うちの大学のことですか?」
佐渡が「決まっているだろう」と額に手をつき、酸欠状態を緩和させるような息を吐く。
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