第171話

「…………え、」


「あんたにあげるつもりで買ったものを、もう必要ないからって私にくれたのよ!」


「……六神が?」


「馬鹿にすんのも大概にしてよ!みりゃ分かるでしょ?!こんな幼稚な時計、私に似合うわけないじゃん!!」


「はあ。」

 


水絵さんが乱暴に立ち上がると、私の胸あたりに無理やり時計を押しつけてきた。



あのすいません。怒りたいのはこっちなんですけど。



「…あと私、ちと君に二度と連絡してくるなって言われたの。」


「………え」


「その画像もちと君に消去されたんだけど、受信メールまでは消去されなかったから。たまたま添付ファイルに残ってたのよ。」


「…そう、ですか…。」

  

「ちと君のキモいぐらいの愛を、あんたは受け入れてあげれる?!」




水絵さんが、さっきまでの常人離れした表情から、人間味のある怒りを露わにした表情になる。



「私に興味ない男が堕ちてくるのが楽しいのに…。堕ちなかった男はちと君が初めてだわ。」



この人、もしかして。愛に餓えてる?



なかなか私から目を離さない水絵さんに、私は真っ直ぐな瞳で突き返した。



今さら本気になられたところで、私は負ける気が全くしないから。



「どんなにキモくたってハゲてたって、六神千都世なら愛せます――――。」



水絵さんが、一歩後ずさりをして。ふいに後ろのライブ映像を一瞥する。



そのまま帰ろうとするので呼び止めた。



「スマホ!忘れてますよ!」



水絵さんがまた戻ってきて、机の上にあるスマホを取り、「泣き顔くそぶさいく」と一言残して帰って行った。



彼女のスマホに映っていたのは、紛れもなく私のぶさいくな画像。




私が一人で、大泣きしている画像だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る