第134話

この商品の規格は、1つの缶の中に1㎏袋が10袋入っているというものだ。



商品は透明な真空パックの1㎏袋で、その中に黄色い柚子皮が入っていた。当然その透明な袋も水滴だらけだし、袋に貼られた成分表示シール(カロリーや賞味期限が書かれたシール)も濡れている状態だった。



まずい。手だてが――――



せっかく六神から貰った大事な仕事が


私を指名してくれた大事なクライアントの商品が



頭の中は自分がミスをしてしまったことでとりあえずパニックに陥っていた。冷静になれと自分に言い聞かせ自分の頬をたたくも、なかなか意識が定まらない。



缶は全部で1000缶積まれており、商品の袋数でいえば、10000袋ということになる。明日が通関カット日だから、今から新しい商品を用意してもらうのは皆無だ。



もうこれは今回の輸出を破棄するしかないのかもしれない。目の前がぼやけそうになるも、拳を作りぐっと握りしめる。



とにかくまず上司への報告と、味八フーズへの連絡が優先だ。



震える足で一課へ戻ろうとした時、池駒が私を引き留めた。




「実来ちゃん!なんかあればすぐ頼ってよ?俺ら同期なんだから!」



心臓が爆音を鳴らす中、池駒の言葉が妙に響いて、すでに泣きそうになった。



「……池駒…どうしよう、わたし…」



池駒が私の肩をたたいてなだめようとする。



「わたし、せっかく六神からもらった大事な仕事を……」


「…六神?」


 

その名前を口にした途端、六神のふざけた顔が思い出される。私をバカにし、見下すその顔が。



それと同時に、「いい女なんじゃないの。」と言われた時の嬉しかった気持ちを思い出した。

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