第71話

きっと顔を見れば、いつもの悪友に元通りになるのを期待している自分と、「やっぱり実来がいい」と告られるのを期待している自分がわずかながらにいる。



都合のいい選択肢しか作りたくない自分は、どこまでも見栄っ張りな意固地だと思う。



この先一生、仕事以外で六神と関わらない人生なんて想像する余地も自分には与えたくない。それが六神と、六神の彼女に対する精一杯の牙の剥き方だ。



もしどこかのドラマのように、勇気だ愛だと騒ぎ立てずにその気になれていたなら、まゆゆは一緒に六神を殴りにいってくれるだろうか。そして六神の彼女に、「この3D貞子!」と罵倒の一つでも投げつけてくれるだろうか。



否、この女は今それどころじゃなかった。




「金曜日さ、あの後、一希かずきんち行こうと駅まで行ったんだよね。」


「うん」


「そしたら一希から電話あってさ、」


「うん」


「土曜朝から部長とゴルフになったから、泊まりに来るのまた今度にしてくれる?って言われて。」


「ゴルフってそんなすぐに予定入るもんなの?」


「そんなわけないじゃん。」


「そっか。」



まゆゆの彼氏の一希かずきさんは、私たちよりも2歳年上で、まゆゆが大好きな韓国女性アイドルのライブに行った際に知り合ったらしい。



損害保険会社に勤めている彼は、金融会社特有のゴルフ接待にも時折参加しなければならないらしく、当然のように貴重な休日がなくなるのはよくあることなんだとか。

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