第40話

「六神ー!今かえりー?」


「俺の幻聴かな、ハツラツとした元カノの声が聞こえるんですけど。」


「元カノも半年も経てばただの同じ会社の人。」 


「実来のレーダーチャート、“気まずさ”ゼロか。」


「残念。“過去に囚われない”が100なの。」


「あと“他人との隔たり”もゼロだったっけ。」


「そうなの?そら知らなんだ。」

 

「よくもまあ知らんオヤジとたまたまバーで仲良くなっただけで野球観戦とか行けるよな?」


「内野席だったからね。私そんな野球に興味ないし。」


「そういうことじゃないんですけど。」




いつも明るくて、他人との壁を作らない実来。



それは大学時代からずっと変わらない。



同じ法学部だった実来。よく講義の最後、時間が余ると「質問ある人」を教授が募集する。皆早く終わりたいし、そもそも大学の講義なんてほとんどの生徒が右から左に受け流すってのに。



実来はそういう中でも平気で質問するヤツだった。ちょっと変わったうざいヤツ。



でも周りからの評価は上場で、実来は“そういう奴”認定印を押されてたから、個性として認められていた。



特に教授からは気に入られていた。半分以上がやる気のない大学生の中で、率先して質問しにくる大学生をかわいいと思わないはずがない。



実来が教授室に出入りしているのだって、俺は知っていた。 




この会社に入った時、実来の方から話しかけてきた癖に、俺の名前については「全く知らない。」と堂々と言われた。特徴が涙ぶくろってだけで、よくもまあ話しかけてきたなと思う。



でも俺は知っていた。



実来春風という名前を。

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