第5話 普通の家庭
「はぁ~、負けた負けた」
ゲーセンでの7戦の激闘を終えて、俺は帰路へとついていた。ちなみに、他2人は道中で既に別れている
あのゲームの勝敗は、全7戦で俺が3勝、ネライも3勝。そして、ラルラが最後の勝負で勝って1勝…そしてそのまま勝ち逃げされた
総勝利数は俺とネライの方が多いにも関わらず、最後に勝ったラルラは盛大に煽ってきやがって、何故だか勝っていた気がしない
だがまあ、嫌な気はしない。ああいうところも、ラルラの可愛げの1つなのだ。それはネライもわかっていると思う
しかしまあ、こういう友達との日常は、代わり映えしなくとも飽きることなく楽しいが続いている
もちろん、部活で切磋琢磨する日々も楽しい
今の俺は、普通に充実した青春を送れているのだろう
そんな風にちょっと詩人っぽいことを考えていると、前方から俺と同じ魔法学園の制服を着た女生徒が歩いてきた
この区にある魔法学園はうちの校だけなので、女生徒がいること自体は不思議じゃない。俺は道を軽く横に移動して、そのまま女生徒とすれ違った
「…今の子」
髪はそれなりに長く、艶もあり、夜空のように綺麗な髪の毛だった。顔つきも整っており、正直かわいいと思った
しかし、学園では見たことのない生徒だった。俺だって男の子だ、あれほど可愛い子ならば覚えているはずなのだが…転校生だろうか?
「にしても、どこかで見たことある気がするんだよなぁ~」
うちの学園には居ない。だけども、その顔には見覚えがあった。昔、どこかで見かけたことがあるのか、はたまた単純な勘違いか
まあ、どちらにしても、そこまで気にするようなことではないので、そこで俺は考えるのを止めた
その後しばらく歩き、俺は家に到着した
ゲーセンを出た時間とゲーセンから家までの距離を考えるに、今の時間なら姉と妹は帰ってきているはず
そんなことを考えながら、俺は鞄から家の鍵を取り出し、鍵穴へと差し込みクルッと回してから扉を開ける
「ただいま~」
俺が機械的に言うと、機械的な返事が2つ帰ってきた
「おっか~」
「お帰りー」
声は2つともリビングの方から聞こえてきた。俺は部屋に荷物を置きに戻る前に、軽くリビングを覗いてみる
リビングでは2人の少女がくつろいでいた。テーブルでノーパソをいじっているのが姉のリアル。ソファーでスマホをいじっているのが妹のリソウだ
「お兄ちゃん、お腹空いた。早くご飯作ってー」
俺の存在に気がついた妹が、特に何の感情もこもっていない声でそう言ってきた
「おう、着替えてからなー」
基本的に我が家の家事は俺と妹の交代制。両親共働きで、リアルは大学の付き合いなどで居ないことが増えたため、自然と俺ら2人がする流れとなった
俺は手洗いうがいをして部屋に戻り、鞄を机の上に置いて、慣れた手付きで制服を脱いで部屋着に着替える
脱いだワイシャツを洗濯機に放り込んでから、俺はリビングへと戻った
俺がリビングに戻っても妹はスマホに夢中らしい、思春期としては当たり前か。姉の方は…なんか別のものに終われているようだし
「うぅ…終わらない…」
大学の魔術研究の課題にのまれている姉を無視して、俺はキッチンへと入り冷蔵庫から昨日買っておいた食材を取り出した
「さーて。やるかー」
姉が課題に埋もれるのを予見していたため今日の料理は、食べる時間を取らず、片手間に食べられるもの…すなわち「ミニハンバーガー」にすることにした
ということで、とりあえず市販のバンズをオーブで温め、その間に他の具材を作りはじめる
ハンバーグ、照り焼きチキン、フィッシュフライなどなど、某ファストフード店で売ってるようなネタを用意していく
途中、匂いに釣られて妹が様子を見にきてくれた
「うわぁ…本当にハンバーガー作ってる…」
「悪いかよ?」
「いや、冷静に考えてみて? 帰り道でハンバーガーを売ってるところ、通るよね?」
「通る。たまに友達と一緒に寄ったりもするな」
もちろん、友達とはラルラとネライのことである。あと、引きこもってる幼馴染みとも行くことはあるな
「ならさ、そこで買ってくればよかったじゃん」
「それでよかったよ。今、結構後悔してるんだよ。昨日の余裕がある自分をぶん殴ってやりたいんだよ」
料理というか何かを作るときは大抵、最初は好奇心やワクワク感が強い。けど時間が経つにつれて、それが薄れていって、最後には面倒くささしか残らないものなのだ
「あ、ちゃんと自覚してたんだ」
「材料を買ってしまった手前、引くに引けなくなってるんだよ。まあ、もうすぐ完成だかな」
「最後ぐらいは手伝ってあげる」
そう言って、妹は具材をバンズで挟み、袋で包んでいった。初めてのはずなのに手際が良い…もしや…
「なあ、お前もハンバーガー自作したことがあるんじゃないか?」
「…沈黙で」
「それは肯定という意味なんだぞ」
やはり妹は妹というわけだ
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