第10話 幕間:煉獄

 捕らえた直樹の仲間の自爆の衝撃で、山根椿は大きく吹き飛ばされ、意識を失っていた。しばらくして、目を覚ますと彼女は遊覧船乗り場のフードコートの入り口にいた、辺りは炎に包まれた状態で火の手が至る所に伸びている。


「丞!…猛!…誰かいないの!?」


 椿は、仲間たちの名前を呼んでみたが、返事はなかった。彼女は不安に駆られながら立ち上がり、辺りを見渡した。

 不意に頭に強い痛みが走る。触ってみると、こめかみあたりから血が出ていた。


 周囲には瓦礫と燃え盛る車両の残骸、そして倒れた八王子夜叉のメンバーたちの姿が見えた。

 そんな中、一人立っている見知った背中の男を見つけた。彼は八王子夜叉の仲間だった。胸が少し安堵で緩み、椿はその男に声をかけた。


「下山!みんなはどこ?」


 しかし、彼は椿の言葉に反応したのか、ゆっくりとこちらに向き直った。その顔は血に染まり、眼は虚ろで、生気のないゾンビのような表情だった。

 そして、椿に向かっておぼつかない足取りでゆっくりと向かって来た。


「えっ…!」


 驚きと恐怖が椿を襲い、彼女は後退しながらその場を駆け出した。遊覧船乗り場のあちこちを逃げ回りながら、生き残った仲間を探すが、目の前にさらに凄惨な光景が広がっていた。

 そこには大庭猛が倒れていた。彼は既にゾンビに転化している様で、力ない表情で首だけを右に左に動かしている。

 足の方では数人のゾンビに囲まれながら自身を食い散らかされていた。


「ぎゃああああ!」


 椿は叫びながら背を向け、その場から走り去った。仲間たちの死体が散乱する中、崩れゆく八王子夜叉の姿に、彼女の心は絶望に染まっていた。どこへ行けばいいのか、どうすれば助かるのか、その思考は混乱していた。


 そんな中、椿はくすぶる煙の中に遠くに深石丞らしき姿を見つけた。その瞬間、彼女の胸に一筋の安堵が広がり、勢いよく駆け寄った。


「丞!よかった、無事だったんだね…!」


 思わず抱きつく椿。炎に囲まれた中で、彼女は唯一の生き残りと思われる丞の温もりを感じていた。


「もうこんな状態じゃ、新潟征服なんて無理だよ…。帰ろうよ、八王子に帰ろう…私地元に帰りたい!一緒に暮らそう!」


 椿はそう言いながら顔を上げた。だが、その瞬間、彼女の目に飛び込んできたのは、喉から顔半分にかけて食いちぎられた深石丞の顔だった。


「丞?…嘘、そんなの嫌!丞!」


 かつて八王子で王とも称された八王子夜叉のリーダーは既に自我を持たぬ生ける屍と化していた。、

 呆然とする椿に向かって丞はゆっくりと無情に彼女の首に噛みついた。


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 山根椿(やまね つばき)

 年齢: 23歳

 職業: フリーター

 性格: 気が強く、負けず嫌いだが、心の奥底には仲間への強い思いがある。表面上は冷酷で厳しいが、組織内では面倒見が良く、メンバーからの信頼は厚い。

 丞と付き合っており、八王子で二人暮らしをする事を夢見ている。


 大庭猛(おおば たけし)

 年齢: 24歳

 職業: 建設作業員

 性格: 豪放磊落で、細かいことにはこだわらない性格。圧倒的な体力と怪力を持ち、肉体的な戦闘力は八王子夜叉の中でもトップクラス。短気で直情的だが、深石丞を崇拝しており、彼の命令には絶対に従う。女性に対して下品な面があり、力で相手を支配しようとする傾向がある。


 下山亮太(しもやま りょうた)

 年齢: 25歳

 職業: 警備員

 性格: 冷静沈着で、状況を客観的に分析する能力がある。しかし、その冷静さゆえに仲間への共感が薄く、自分の利益のためなら他人を犠牲にすることも厭わない。頭の回転が速く、集団内では知恵袋的な存在だが、その知恵を悪用することも多い。

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