第5話 幕間5:避難所にて

 山内はトラックを走らせながら、小学校の校舎が見えてくると安堵の息を漏らした。既に辺りは暗闇となっており。

 周囲には自転車やバイクが倒れている。両サイドを田んぼに挟まれた道を走り進めていくと、小学校の校門付近に到着した。


「無事でいてくれ…」


 T字路を右に曲がり、体育館へと車を向けると、目の前には「避難所」と書かれた立て看板が見えた。ドラム缶の焚火の明かりに照らされ、数十人の人影が揺れている。


「みんな、無事だったのか…!」


 山内は胸が熱くなり、涙をこらえながらトラックから飛び出した。彼の足は地面を蹴り、家族の元に向かって駆け出す。しかし、近づくにつれ、その人影の異様さに気づく。焚火に照らされた人々は、一人として正常な姿ではなかった。


「おーい!じいさん!ばあさん!母さん!返事してくれ…麗奈!」


 声を張り上げ、名前を呼びながらゾンビたちの間を駆け抜ける。だが、彼が見つけたのは、無数の血の海と、肉を食らう死者たちだった。体育館の床は真っ赤に染まり、奥のステージではわずかな抵抗者たちが必死に戦っている。


「今助ける!」


 モーニングスターを振りかざし、山内は次々とゾンビをなぎ倒す。まだ希望は残っている!そう信じ倒れていくゾンビたちを背に進んだ。

 ステージにまとわりつくゾンビを引き剝がし、頭に鈍器を叩きつけながら、息を切らし、ステージ前で立ち上がろうとする一体のゾンビの頭上に武器を振り上げる。


 勢いよく振り下ろした得物が頭を逸れ肩口に当たり、ふらついたゾンビが山内の方を向いた。止めを刺そうと再度振り上げたモーニングスターが唐突に止まった。


「……あ……かあ…」


 山内の目の前にいたのは、妻だった。目が虚ろなその半分となった顔には、生前の優しさが微かに残っていた。

 そして、後ろからよろよろと立ち上がってきた小さな影。それは、娘の麗奈だった。

 山内の手からモーニングスターが滑り落ち、床にゴトンと鈍い音を立てた。


「ああああああああああああ!」


 膝が崩れ、彼はその場にへたり込んだ。奥のステージで抵抗していた者たちも抵抗しきれなかったのだろう。聞こえるのは死者たちが肉を貪るペチャペチャという音だけだ。

 山内の希望は完全に打ち砕かれ全ての意思や力が霧散した。


 妻と娘がゆっくりと山内に覆いかぶさってきた。もはや抵抗する力など残っていない。ただ、死者たちの冷たい手が彼を引きずり込んでいくのを感じるだけだった。

 薄れゆく意識の中で山内が自分の左腕に噛みつく娘の頬をそっと右手で撫で呟いた。


「……麗奈…ごめんな……」


 彼の最後の言葉は、誰に届くこともなかった。


 -----


 祖父:山内正蔵(やまうち しょうぞう)


 年齢: 80歳

 職業: 元農家(引退)

 性格: 無口で厳格、昔気質の農夫。人生を通じて土と向き合い、家族を養ってきた。冷静で理屈っぽいところがあるが、孫には甘く、いつも甘やかし過ぎて祖母に叱られる。

 背景: 長年農業に従事しており、周囲の村でもその腕は評価されていた。妻に先立たれたが、家族のために黙々と働き続けた過去がある。引退後も農作業を手伝うことが多く、家族に頼りにされている。


 祖母:山内雅代(やまうち まさよ)


 年齢: 78歳

 職業: 専業主婦

 性格: 優しく世話好きだが、頑固な一面もある。家族を最優先に考える母親で、料理や家事をこなし、家族の健康と生活を支えてきた。特に孫娘を溺愛しており、孫の笑顔が生きがい。

 背景: 若い頃から正蔵を支え、家庭を守り続けた。パンデミック前は、近所付き合いも盛んで、村の集まりでも中心的な存在だった。体力は落ちてきたが、料理や庭の手入れなどを今でも楽しんでいる。


 母:山内美穂(やまうち みほ)


 年齢: 38歳

 職業: 小学校の教員

 性格: 穏やかで落ち着いており、教育者としての責任感が強い。家族への愛情も深く、特に娘には教育熱心である。厳しいときもあるが、温かく包み込むような性格で、家族の精神的な支柱。

 背景: 教師として、地元の小学校で子どもたちに勉強を教えてきた。地元の商店を営む両親に育てられたため、家族や地元を大事にし、困ったときにはすぐに手を差し伸べる。


 娘:山内麗奈(やまうち れな)


 年齢: 13歳

 職業: 中学生

 性格: 明るく活発で、好奇心旺盛。母親譲りのしっかり者だが、子どもらしい無邪気さも持ち合わせている。家族を大事に思い、特に祖父母との関係が深い。学校では友だちにも恵まれ、笑顔が絶えない性格。

 背景: 中学校の2年生で、友だちと一緒に過ごすのが大好き。特に母親を尊敬しており、将来は教師になりたいと夢を語る。

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