第2話 幕間:刹那の宴
半グレ集団「八王子夜叉」の一人、杉山は、仲間たちと獲物を襲撃した際、かつての仲間だった伊藤直樹が突然現れ、"狩り"を台無しにしたことが、どうしても許せなかった。杉山は内心で愚痴をこぼしながら、仲間たちと共に死の匂い立ち込める街を歩いていた。
「クソッ……直樹の野郎、裏切りやがって」
杉山が苛立ちを抑えきれずに吐き捨てると、隣にいた下山が皮肉っぽく笑った。
「まさか直樹が、あんなヒーロー気取りになるとはな。昔は俺らと一緒に好き放題やってたくせによ」
下山の言葉に、もう一人の仲間、吉田も不機嫌そうに頷いた。
「あいつは元々あんなんだよ、丞さんの幼馴染ってだけで調子に乗りやがってた。で、今頃聖人ぶってんだろ?ウケる…」
杉山は舌打ちし、持っていた空のペットボトルを近くの民家に投げ捨てた。
しばらく歩き、目の前にコンビニが見えてくると、自然とそちらに足が向いた。周囲には生存者はおろか化け物もいない。
「……喉がカラカラだ。ちょっと寄ってくか」
仲間たちは無言で頷き、杉山と共にコンビニへと向かった。店内はすでに何度も荒らされていたが、バックヤードに少しの水や食料が残っていた。杉山は棚から水のペットボトルを取り出し、そのまま口を付けて飲み干した。
「うめぇ……」
周りを見渡すと、下山がカップ麺を手に取り、吉田は酒のボトルを見つけていた。笑いながら、吉田がそのボトルを掲げる。
「こんなんあったぜ~♪」
そのボトルを見た杉山もこの騒ぎ以来酒を飲んでなかったため自然とテンションが上がった。
「お~!いいねぇ♪」
杉山は酒瓶を受け取り、勢いよく蓋を開けた。次々にボトルを回し飲みしながら、彼らはコンビニの隅に座り込んでいった。酒が回り、酔いが深まるにつれて、笑い声は次第に大きくなっていった。
「こうしてるとさ……意外とこの世界も悪くないよな、ハハッ!」
酔っ払った下山がそう言って大声で笑った。
「ああ、うるせえ警察も、文句言う親もいねえからなぁ!」
そう言ったあと、杉山が少し考えた後口を開いた。
「それにしてもなんで先代はアイツをチームの跡目に選んだんだ?よそ者だし喧嘩なら俺の方が上だぜ?しかもこんな時でも明日集会するから来いとよ!」
酒で気が大きくなったせいか徐々に本音が漏れ始める。それに下山が乗っかる。
「分かんねえけど…先代の妹とデキてたからじゃね?」
吉田も赤い顔で口を挟み始める。
「それもあるけどよ、あいつは頭が切れるし、相棒の直樹は滅茶苦茶ケンカ強かっただろ?」
その言葉に杉山が語気を強める。
「結局その直樹は裏切ったじゃねーかよ!」
そう言って空のボトルをコンビニの窓ガラスに投げつける。
ゴン!という鈍い音を立て、強化ガラスに跳ね返されたボトルの落ちた先に、数体の人影があった。
「……おい、静かにしろ」
下山の声に杉山の途切れ、全員が息をひそめた。目を凝らすと化け物たちがコンビニを取り囲んでいた。しかも数体は既にコンビニの入り口に迫って来ていた。
「ヤバい……逃げるぞ!」
杉山はそう叫び、仲間たちと共に裏口に走り出した。しかし、裏口の外にもゾンビがすでに待ち構えていた。
「いつの間にこんなに……クソッ!」
ゾンビを突き飛ばして逃げようとしたが、酔いも手伝って足元がもつれて転倒した。その瞬間、背後から冷たい手が彼の肩を掴む。
「やめろ……!」
必死に振り払おうとしたが、化け物たちは徐々に杉山にのしかかってくる。
「お前ら!助けろ!」
視線を仲間たちの逃げた方向に向けると、吉田も化け物に掴まれ、太ももから大量出血し絶叫を上げていた。
「なめんなゴラァ!!」
気合と共に立ち上がった杉山は、レザージャケットの肩口に噛みつく老人の屍を投げ飛ばし、鉄パイプを化け物の頭に叩きつけていった。
「おう下山!生きてっか!?」
声をかけた先では化け物たちの包囲を何とか突破した下山の姿が見えた。
下山は杉山の奮戦を一瞥すると、そのまま去ろうとしていた。
「待て、ふざけんなよ!手伝えって!」
その叫びを聞いた下山が、振り返って叫んだ。
「悪いな!吉田もお前ももう駄目だ!得にもならねーことはしたくねーんだ!」
そう言って下山が右腕を上げ、左手で右手首を指差す。
そのジェスチャーに杉山が自身の右手を確認すると、噛み傷があり血が滴っていた。
それを伝えると下山は軽く手を上げ暗闇の中に消えていった。
「おい!下山!ふざけんな!戻ってこい!チキショー!!」
杉山の叫び声はゾンビのうめき声にかき消され、闇に沈んでいった。
----- 人物メモ -----
杉山隆二(すぎやまりゅうじ)
年齢: 26歳
職業: 自動車修理工
性格: 粗暴で短気、状況に応じて暴力を振るうことに躊躇しない。しかし、集団の中では弱い立場を自覚しており、リーダーシップを取ることは苦手。他人に対して皮肉や文句を言うが、深い絆を築くことはない。
吉田順平(よしだ じゅんぺい)
年齢: 25歳
職業:コンビニ店員
性格: 軽薄で気まぐれ、状況に応じて態度を変える狡猾さがある。しかし、本質的には臆病で、危険な状況では真っ先に逃げ出す傾向がある。仲間内では冗談を言って場を和ませる役割だが、その裏で自分の保身を常に考えている。
下山亮太(しもやま りょうた)
年齢: 25歳
職業: 警備員
性格: 冷静沈着で、状況を客観的に分析する能力がある。しかし、その冷静さゆえに仲間への共感が薄く、自分の利益のためなら他人を犠牲にすることも厭わない。頭の回転が速く、集団内では知恵袋的な存在だが、その知恵を悪用することも多い。
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