異世界トラベラー ~異世界「ファンタジア」旅行記~
@cloudy2022
第1話:序曲/物語の始まり
――いつの時代だったか、「事実は小説よりも奇なり」とはよく言ったものだ。
――意味としては、「作られた小説よりも、実際の世界の方が不思議で奇妙なことがある」というものらしい。
――なるほど確かに、実際に起こってきたことはどれも想像しえないような物ばかりだ。
――だがしかし、小説の中でしか起こりえないことの方が面白いと感じることは何度だってある。
――だからこそ、一部の人間はそこに『浪漫』を感じ、必死になってそれを追い求めようとするのだ。
――小説の中でしか起こりえない不可思議なことは、事実でも起こり得る……そう信じて。
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――突然だが話を変えよう。
――もし、君達はそんな空想上の世界が『ありえるもの』だとしたら、
――どのような世界が良いと思う?
――私は、そうだな……俺は――
――『胸の踊る冒険ができる世界』だったら最高に楽しいだろうな。
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「よっこら、しょっと……結構深いな、この洞窟……」
地下深く、天井から滴る水の音が辺りに木霊するような洞窟の中で、一人の男が冒険をしていた。
男の名は「
浪漫を追い求める若き冒険家だ。
「……あれからどれくらい経ったんだろうな……」
ゴツゴツとした岩肌で構成された洞窟の奥深くで、ワタリはそう呟く。
このワタリという男は、ある意味では世捨て人ともいえる生活を送ってきた。
少年の頃から映画や漫画でよく見ていた「冒険家」と呼ばれる『ロマンを追い求める人物』に憧れ、そのための努力をしてきたのである。
大人になってからは様々な場所を転々とし、世界各地にある様々な遺跡を探索。
時には命からがらの大冒険を繰り広げる時もあったが、充実した毎日を送っていた。
だがそれでも、時々感じるのだ。
――「今よりもっと心が躍り、胸の高鳴る冒険ができたのならば」と……
「……ま、考えてても仕方ねぇか。あーあ、いっそのこと異世界にでもいけたらなぁ……」
洞窟を進みながらもそう独り言を呟くワタリ。
その足取りは泥沼に浸かったかのように重く、表情は暗いままだった。
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あれから何時間経ったのだろうか、ワタリは果ての見えない洞窟の奥深くへと潜っていた。
ある時には濡れた岩に足を滑らせかけ、またある時は大きな段差を降りることもあった。
そこまでして、ワタリが歩みを進めているのはなぜか……
「……本当にあるんだろうな、村の爺さん……ここの奥に『世界の門』ってやつが……」
そう呟きながら狭い洞窟を地道に進んでいく。
ワタリが言ったように、この洞窟の比較的近い場所にある村の中でも「変わり者」と呼ばれている老人曰く、人の手がほとんど入っていないこの洞窟の奥深くには、『世界の門』と呼ばれる湖があるらしい。
その湖には様々な色の石があり、その石が松明などの光を受けてそれぞれの色を放ち、その場を照らし出すという不思議な場所。
この情報を聞き出すためにかなりの時間はかかったが、それなりの信憑性はあるだろう。
ちなみにだが、なぜ「世界の門」という名前を付けられているのかは、今はもう定かではないらしい。
しかし、噂程度の言い伝えとして、「その湖の向こう側にはまた違う世界が見えるらしい」というものがあるそうだ。
その別の世界からの贈り物が、湖の中にある石だともいわれている。
「……ま、なかったらなかったで、その石ころを拝めるだけでも儲けもんか……」
だが、そんな突拍子もない話をいきなり信じるほどワタリは馬鹿ではない。
しかし、「それでも」と、そんな噂程度でしかない話を信じたいと思っている『心』があるのだ。
ロマンを追い求めているからこそ、諦めの悪い人間なのがこの男である。
「……! あれか……! すげぇ……マジで光ってやがる……!」
――やがて見えてきたのは、まさしく幻想的な光景だった。
辿り着いた先には、話に聞いていた以上の美しい地底湖と、持ち込んでいたライトの光を反射して輝く様々な色の石が水底に敷き詰められている。
その光景を一目見たワタリから、思わず感嘆の言葉が漏れた。
それほどまでにワタリの目に映る光景は美しかったのである。
「……まるで海の中から空を見上げようとしてるみたいだ。ちっとばかし煌びやかすぎるがな……」
湖の傍に座り込みながら小さなライトを向けただけで、むしろ石から光が発せられていると思うほどの光の量にふと呟くワタリ。
海の中から見上げる、あの差し込むような光が湖の底から溢れ出していると例えるなら確かに分かりやすい。
あまりの眩しさに覗き込もうとすれば、『目が眩んでしまいそう』だ。
「……待て、さっきまでこんなに明るかったか?」
――そこでワタリは違和感に気づく。
――明らかに光が強くなっていることに。
先程まで周囲を淡く照らす程度だった石の光が強まり、周囲がまるで真昼のような明るさを放ち始めたのである。
「何が起こって……地震だと……!?」
異変はそれだけにとどまらない。
地面が大きく揺れ出し、それにつられて水面が波打ち始めたのだ。
しかもただ波打ち始めただけではなく、この閉鎖された空間には起こりえない、『風』が吹き始めたのである。
「っ!? やっべ……!?」
異常事態の連続に動揺していたワタリは反応に遅れてしまった。
水の飛沫が風に巻き上げられ洞窟の中を飛び回り、立ち上がろうとしたワタリの体を強く打ち据え、彼の体を湖の中に引きずり込んでしまう。
起き上がろうにも湖が荒れ狂っており、体勢を立て直せない。
(チクショウ……! まだ、俺は……! もっと『知らない世界』を、見て、回りたい、ってのに……)
「ここで終わってしまうのか……」そんな考えが一瞬過った。
――その時である。
『――――望むまま、大地を、海を、空を行け――』
(……!?)
なにやら『歌』のようなものが聞こえたのである。
空耳ではない、確かにはっきりとした歌声が聞こえたのだ。
「水の中で歌声が!?」などと思っている間にもその歌は紡がれていく。
『――――九人の英雄、拓かれた国、さぁどこへ行くのだ旅人よ――』
『――――水の英雄は「愛」を語り、火の英雄は「力」を示し、木の英雄は「知恵」を授け――』
『――――土の英雄は「技術」を広め、氷の英雄は「生命」を掲げる――』
『――――風の英雄は「自由」を望み、金の英雄は「富」を与え、夜の英雄は「神秘」の中に生き――』
『――――人の英雄は「繁栄」をもたらした――』
『――――嗚呼、旅人よ。君はどこへ行くのだろうか――』
「……!?」
まるで自身へと問いかけるかのように紡がれていく歌。
いつの間にか、息すらも忘れて聞き入っていた。
その歌が聞こえなくなったと同時にワタリの体はどこかへと引っ張られていく。
先程から自身の視界を埋め尽くしていた光が強まると同時に――
――ワタリは意識を失ったのであった。
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