日の色

九十九牡丹

第1色 布団の魔法

いよいよ今年も秋がやって来た。


全体的に涼しくなって、昼夜ともわず過ごしやすい。


こんな日は外に出ようかと思うが、それを許してくれないものがある。


それは"布団"だ。


この季節から、布団は魔法を使う様になると思っている。


"拘束する魔法"、と言えばキツく聞こえるかも知れないが、実際はとても優しく暖かい。

私の愛用のヨレヨレの布団は毎朝、私を包んで離さない。


薄日が差し、ひんやりとした朝の空気は、布団の魔力を一段階引き上げる。


うっ、動けん…!


夏ではうっとおしくて仕方がない、あの布団の温もりは、今は離さないと同時に夢の国の扉を開いてくれる。


人の三大欲求に睡眠欲が有るのが、頭だけで無く全身で理解出来る。


その瞬間、私は扉の向こうへと踏み出し、深く広い夢の国へ旅立ってゆくのだったー!



…そしてハッと目を覚ませば、膨大な時間の経過を知ることとなる。


この時の倦怠感、後悔、無常感は重く、そして硬い。


休日だったのならばこれが3倍になる。


更に恐ろしいのは、これがまだ半分程度の力なのだ。


冬の極寒の早朝。


光照らす太陽は、温もりは私に与えてくれない。


唯一私に温もりをくれるのは、冬用に衣替えした布団だ。


この時の布団の魔力は、もはや神と同等の物に変化する。


そして開かれる夢の扉。


全身で感じる睡眠の幸福。


完全と成った布団の魔法に対抗する手段を、私は持ち合わせていない。



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日の色 九十九牡丹 @tukumoBotan

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