第2話

 

 「篠原 六花(しのはら りっか)、お前この資料の留め方ちょっと雑じゃないか?」


 職場のデスクで散乱する資料をまとめていた私に声をかけてきたのは、同僚の岬 恵斗(みさき けいと)だった。


 フルネームで呼びつけられて、こんな風にどうでもいいことでネチネチと突かれるのはいまに始まったことじゃない。


 始まったことじゃないから、余計にイライラする。


 今みたいに考え事をしたり、仕事に集中している時なんかは特に。


 「……ミケ、私、今日中にって部長に頼まれていた仕事に集中してんの。資料の留め方なんて、袋綴じになってなきゃ問題なくない?」


 「袋綴じって……そりゃ確かにそれじゃ読めねーから大問題だが……てか、いつも言ってんだろ。人の名前勝手に短縮するなって」


 みさき けいとだから、ミケ。


今年の春入社してきた新人が、何でもかんでも略すのが癖で。


いくら言ってもなおらないから、「君の名前も略してあげよう!」とその新人、田丸 誠(たまる まこと)をタマと呼ぶことにした。


その時たまたま、同期入社である岬 恵斗もいて、岬も略したらミケだねなんて、ほろっとこぼしてしまった事があって。


 それ以来、ごくたまに岬 恵斗のことをミケと呼ぶようになった。


 もちろんここは職場だし、お客様の前や上司の前でミケなんて呼べやしないから、今みたいにちょっとイラっとしたときにだけ使っているのだけど、結構ミケって響きが嫌いじゃなくて、すっかり元に戻ったタマこと田丸くんに比べると使用頻度はかなり高い。

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