9話 ラッキースケベあるよ


先日の集まりから少し経過した金曜日の夜。

俺は集会所で地区の子供たちと太鼓の練習をしていた。


畳が敷かれた広い部屋の中、横一列に5台の太鼓が並んでおり、それぞれの太鼓にペアの2人が向かい合うようにして太鼓を叩いていく。


練習とは言いつつも太鼓の演奏はラジオから流される音頭に合わせて叩くだけなので難しくはない。そのため、感覚的には夜にみんなでスポーツをして遊んでいるのが近かった。



「沙也加ちゃん大丈夫?」


「うんっ!太鼓叩くの楽しい!」



俺と反対側で演奏する沙也加ちゃんも、滅多にない体験に楽しそうにしていた。


沙也加ちゃんが太鼓を叩くたびに、ねじり鉢巻きで固定された少し長めの髪が飛び跳ねる。


この場にいる全員が法被にねじり鉢巻き姿で練習に取り組んでいるが、その中でも沙也加ちゃんの演奏姿は魅力的だった。


俺も一応それなりに似合っていると思いたいが・・・美少女には何でも似合うということをわからされた気分だ。



ラジオの音頭に合わせた練習も2回、3回繰り返したところで低学年の子を含めた全員が問題なく演奏できるようになっていた。


何だかんだ言って始まってから30分。


疲労と暑さで「疲れたー」という声が出てきたので休憩を取ることになった。


「ふぅ・・・沙也加ちゃんお疲れ!」


「裕哉君もお疲れさまっ!」


自由に持って行っていいよ、とテーブルに置かれたオレンジジュースを受け取ると、俺と沙也加ちゃんは部屋の隅の方で腰を下ろした。


「暑いね・・・」


「そうだねっ・・・クーラーほしいよーー」


「ここ古いからエアコンなかったりして」


「えー!あ、確かにそうかもっ!」


外見も廃れていれば室内も同様に綺麗だとは言い難かった。

部屋の奥に使われなくなったモノたちが山のように積みあがっている。ここは倉庫代わりなのかな?


まあ普段使う所は掃除してるみたいだけど。



「でもせめて扇風機はいいやつにしてよっ!」


「それなぁ」


部屋の中心で風を送るためにクルクルと頑張っている扇風機を見て沙也加ちゃんが文句を言う。扇風機の羽根?が錆びているだけでなく変な音もするし、そもそも出力が弱い気がする。


・・・うちの地区って金がないのだろうか


リデュース・リユース・リサイクルの域を超えていると思うんだよね。


「・・・まあその分これが美味しく感じるしありか?」


「確かに美味しいかもっ!」


熱い身体に冷たい飲み物は格別だ。

間違いない。


ゴクゴクと喉を鳴らしながらオレンジジュースを飲んでいく。

炬燵でアイス🍨、冷房におでん🍢、レベルの悪魔的な行為。


控えめに言って最高だった。


「よーし、そろそろ再開するよー」


しかしそんな至福のひと時はお爺さんの声で終了する。

現在時刻は19時30分。残り30分といったところか。


俺は沙也加ちゃんに声をかける。


「もうひと頑張りしますかー」


「おーー」


胡坐を解きしぶしぶ畳から腰を上げる。


そして、戻ろうかと思い沙也加ちゃんの方へ向いたところで――



「――沙也加ちゃん?!」


「――うわぁっ?!、ご、ごめんね、裕哉君!?」



何かに躓いたのか倒れそうになる沙也加ちゃんに気づいた俺は、畳との間に体を割り込ませるように動くと何とか沙也加ちゃんをキャッチすることに成功した。



「だ、大丈夫!?けが、してない?」


「う、うん・・・ありがと」


「あ、うん、よかった」


「・・・・」


「・・・・」


「「あっ・・・」」



――あれ、どの状況どことなく既視感が・・・??


傍からみたら抱き合っているように見えるということに俺と沙也加ちゃんは気づいき、顔が熱くなるのを感じながら慌ててお互いに距離を取った。


「ほ、本当にごめんね、裕哉君!舞依ちゃんと萌花ちゃんに色々言われてたのに!」


「いや、こっちこそ!・・・事故とはいえ抱き着く感じになって悪かった!」


「だだ、大丈夫だよっ!!気にしないで!」


「そ、それならよかった・・・」



だが俺は舞依や萌花とも違う沙也加ちゃんの甘い香りに心臓がバクバクだった。

抱きしめた時に漂ったそれが、いつまでも俺の鼻孔に残っていた。


「――は、早く戻ろっか!」


「そ、そうだねっ!戻ろっ!」


「・・・・・」


「・・・・・」


「「っ?!」」


「・・・は、恥ずかしいからあんまりこっち見ないでっ!」


「ご、ごめん!!」


「・・・・あっ、私こそ、そういう意味じゃなくて!・・・ご、ごめんねっ」


「い、いや・・・大丈夫」


「そ、そっか・・・・」


練習場所に足を進める俺と沙也加ちゃん。

しかし、先ほどの事故によって気恥ずかしさが生まれてしまい、視線が合うだけで動揺してしまうようになっていた。


出会った時ですらこれよりもマシに会話出来ていたレベルだ。


諸事情逆行のこともあり自分が他の同年代に比べて精神年齢が高めだぞ?と少し調子に乗っていた部分もあったが、実際は事故で接触しただけでこの有様。


自分の事ながら自分が情けなく感じた。



幸い誰かに見られたわけではなかったので、部屋に戻ると正常心を装いながら練習を再開する。


「・・・・・」


「・・・・・」


だが、思い出しても見てほしい。

俺と沙也加ちゃんは同じ太鼓を演奏していたということを。


――いや無理だろバカか?! 死ぬの?ねぇ、死ぬの?!


向かい合う体勢で太鼓を叩く俺と沙也加ちゃん。

そのせいで、なるべく沙也加ちゃんを見ないように意識しても、どうしても視界に入ってしまう。


不可避トラップだった。


何より、沙也加ちゃんの表情から向こうも同じ状況になっていることが分かってしまうせいで、余計に演奏に集中できなかった。


「・・・・・」


「・・・・・」


「ありゃ、2人ともどうかしたのかい、変な動きして・・・何かの練習でもしてるのかい?」


「「――何でもないです!」」


「お、おう・・・・そ、そうかい・・・・・・・疲れたら休んでいいからね」


「「ありがとうございます!」」


あまりに挙動不審だったせいかお爺さんに声をかけられた俺と沙也加ちゃん。

しかし俺たちの「早くあっちに行って!何もないから!」という熱意が伝わったのか、お爺さんはそそくさといなくなった。


若干呆れた表情をしていたのは気のせいだろう。

まったく失礼な爺さんだ。


まぁ・・・流石にそろそろ真面目に取り組もうか。

いつまでもこのままじゃ練習にならないからな。


――しかし、そう俺が決意したタイミングで俺の正面にいる沙也加ちゃんがおかしなことを言ってきた。


「裕哉君っ!太鼓を叩くタイミング私と被せてこないで!」



・・・・はい??????





★★★

あとがき



読了感謝です!

もしよければ☆☆☆をくれたら作者が喜びます!

また、コメント等もモチベーションが上がります!


今後ともよろしくお願いします!


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