第13話

目紛しく過去の回想を夢に見た。



夢だと思ったのは、もう1つあり得ない感覚を覚えていたから。



聞き慣れた颯斗の声が何度も私の名前を呼んでいた。



聞き慣れた颯斗の声なのに、声の温度がいつもと違う。



私の名前を愛おしげに、そして時に甘く。



薄っすらと視界に浮かぶ颯斗の表情も、何かに耐えているかのような、苦しげに見えた。



そっと手を伸ばして颯斗の頬に触れれば、颯斗は私の手を取り自らの唇に寄せた。



全てが現実ではあり得ない光景で。



颯斗がこんな風に熱い目をして私を見つめるのも、そして優しく触れるのも……。



夢ならば、今私は最高に幸せな夢を見ている。



このまま覚めなくてもいいと思えるくらいに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る