第12話
『百合の良さが分からないヤツなんて、さっさと忘れちまえ』
振られるたび颯斗は慰めてくれた。
好きでもない相手と付き合って、そして振られて……そんな付き合いをしてきた私が、相手と別れたからって涙のひとつも出やしなかったけど、優しい颯斗の気持ちすら利用して、甘えた。
それは私達が大人になっていくにつれて少しずつ狡さを含んでいく。
好きでもない相手と付き合っていた私だけど、キスもそれ以上のことも、颯斗以外となんて考えられなかった。
大学時代初めてキスされそうになったのは、その時付き合っていた彼氏。
そういう雰囲気だけは作らないようにしてきた私も、咄嗟に来られた時は、もうダメかと思った。
泣いて、相手から逃げて……当時颯斗が住むアパートへ逃げ込んだ。
訳も言わず泣きじゃくる私に、颯斗は黙ったまま寄り添ってくれていた。
お酒を飲みながら楽しい話をしてくれて、私を笑わせてくれて……。
颯斗は、私を親友として本当に大事にしてくれていた。
その颯斗の優しさにつけ込み、酔ったふりをして彼の唇を奪った。
最低なことをした。
颯斗は1週間口をきかないことで許してくれたけど、その1週間を私がどれほど悔やんで落ち込んで……そうして初めての颯斗とのキスに心を震わせていたかなんて、誰も知らない。
あの時私は誓ったの。
颯斗への想いはしまっておくと。
胸の奥、ずっとずっと奥にしまって鍵をかけて封印してしまおうと。
そうして時間が流れて、自分自身ですら颯斗への想いを忘れたと思っていた。
それなのに、こんなに簡単に鍵が壊れてしまうなんて……。
最悪だ。
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