第29話

「…雛子?」




梨香の声が聞こえて、ゆっくり開いた目にうつったのはやっぱり梨香で。



その隣に保健医の田中先生がいた。



「あ…私…」



身体を起こそうとして、先生に肩を押された。



「まだ寝てなさい」



そう言われて大人しく従う。



頭だけ動かして、梨香の方を見た。



「大丈夫なの?顔色まだ悪いよ?」



泣きそうな梨香の顔。




「梨香の鉄拳のせいじゃないから…」



冗談めかして言うと、梨香は「もうっ」と口を尖らせた。




「冗談が言えるくらいだから大丈夫だとは思うけど、今日は無理をせず帰ったらどう?」



少し考えた後、私は首を左右に振った。



「大丈夫です」

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