第27話

そんな私の前に影が出来る。



「…雛、」



降ってきた声に反応して、身体がビクッと震えてしまった。



躊躇いを帯びた優しい声で私を呼ぶのが、間違いなく成くんだって分かってる。



いつものように「おはよう」って挨拶すればいいだけの話だ。



「…お、はよう…」



やっとの思いで口から声は出てきた。



でも、顔は上げられなかった。そして机の上で握り締めた両手がなぜか震えた。



「雛」



さっきより少し大きく聞こえた声は、最初の声と違って低く響いた。



ズン…と鳩尾に響く。



どうしてか、その声が怖くてなおさら顔が上げられなかった。




「席に着けよ~」



そんな声と同時に担任が教室に入ってきたから、成くんはなにも言わないまま

自分の席に戻っていった。



その後ろ姿を顔を伏せたまま、目だけ動かして私は見た。



どうしよう。



成くんの顔がまっすぐ見られない。



こんな事今までなかった。



彼の声を聞いて体が震えるなんて。



怖いと思うなんて。

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